昨年ローマのMaker FaireでArduinoのMassimo Banziが言った。「Arduinoは今スウェーデンやスペインで教育プログラムを展開しているよ。教員向けだからまだ知られていないんだ」
それから1年。先日のMaker Faire Rome 2015ではIntelとの提携で実現したわずか27ユーロという低価格の新しいボード「Genuino101」が発表され、これから同社の教育プログラムでも活用されることがアナウンスされた。アメリカ、スウェーデン、スペイン、イタリア、そして中国など世界1万校以上で展開されるという。
Arduinoの教育プログラム、Arduino Verkstadを主導しているのは、同社の共同創業者の一人、David Cuartiellesだ。彼はArduinoの開発に初期から関わっているが、スウェーデンのマルモ大学のデザイン学科でIoTなどのテクノロジーについて教鞭を取っている現役の教師であり、そして大変フレンドリーなスペイン人だ(写真中央は中高生たちの作品発表会で記念撮影に応じるDavid)。
Arduino Verkstadはスウェーデンのマルモに拠点を置いているが、スウェーデンとスペイン、イタリアなどで教育プログラムを展開している。
今年に入ってから、実際に授業で生徒が作った作品の発表会(2、3月)と教育プログラムの前に教員へ行う講習の様子(7月)など、バルセロナで同社が展開する教育プログラムの様子を取材した。
7月中旬、うだる暑さのバルセロナでカタルーニャ州の高校の技術科の先生方を対象とした講習が行われた。日本ではまだ耳慣れない言葉だが、こういった教育プログラムは「CTC(Creative Technologies in the Classroom)」と呼ばれている。夏休み期間を利用して、3日間に渡って1日4時間ほど行われる。スペインでは冷房があまり使われないので、教室には大きな扇風機が何台か設置されていた。
壇上からDavidが講義を行い、40人ほどの教員たちをアシスタント1名とDavidが時折、机間を巡視する。ちなみにこの日の技術科の教員の男女比は半々ぐらい。日本の技術科に比べると圧倒的に女性の教員が多い。
各教員には段ボール一箱分のキットが配布される。バルセロナの場合は、地元の大手銀行la Caixaがスポンサーになっていて諸費用が賄われている(他の地域の場合は大手通信会社など)。la Caixaは様々な社会貢献活動を行っており、美術館や科学博物館など(顧客は無料で、顧客以外もかなり安いチケット代で入場できる)を持ち、後で紹介する生徒が作った作品を発表する発表会もその科学博物館で行われる。
内容はArduinoのIDEの使い方を学びながら、組み立てたキットを接続して、簡単なゲームなどをインストラクションに従って作る初歩的な内容。技術科の教員なので、何らかの言語でのプログラミングの経験はあるようだ。講習が終わった後は、オンラインでサポートを受けながら、各校で授業が行われる。このプログラムのためのポータルサイト(英語・スペイン語・カタルーニャ語)があり、生徒・教師からの質問に応えたり、情報共有などを行う場として使われる(リンク先はログインしてやり取りを見ることはできないが、いくつか授業で使われるコードのサンプルを見ることができる)。
「学期の終わりには必ず発表会を行います。○月○日になりますから、必ずこの日の予定は調整してください」とDavidが言って、講習は終わった。
講習終了後、中庭で談笑するDavidと参加者たち。集まって記念撮影したり、タパスバーに入って昼食を取ったりする。とてもスペイン的だ。
プログラムの集大成として、生徒たちが発表が行われる場所は、前述の科学美術館、Cosmo Caixa。時期が前後するが、以下は今年の2月にバルセロナで行われた発表会での様子だ(つまり前年分の教育プログラムのフィナーレとなる)。
発表会は土日に行われ、日本で言う普通科の中学校・高校から生徒や教師はもちろん生徒の家族も多数訪れていた。
のろのろ少しずつ動くArduino内蔵電動スケートボード。
タブレットでぬいぐるみを動かす作品。生徒自身が作品について何をしたのか来場者に説明する。
ギターのフレットの部分に付けたボタンを押して音を出す作品。音楽系の作品がかなり多く、全体の4分の1ぐらいを占めていた。
このブルドーザーのような作品の展示は、トラブルで動かなくなっていたが、会場を回る審査員が優れた作品に与えるバッチがいくつか与えられていた。
水質検査を自動化した装置。このように初歩的でシンプルな作品から少し凝ったものまで、週に1、2時間の技術の時間に普通科の生徒がArduinoを使って初めて作った作品としては中々の出来ではないだろうか。ちなみに中学だけでなく、普通科の高校でも技術の授業は必修で行われているそうだ。
学校でArduinoを使って何か作るだけでなく、その成果を見せる場所もある。作り方を学ぶことも大切だが、それを実際に誰かに見てもらう機会がこの年頃の子どもたちにあることは、彼らがエンジニアリングやものづくりを志す学生でなくとも、とても貴重なことだ。またこういう地道な教育機会が、Makerを育てるだけでなく、Makerをサポートする層を厚くすることにも繋がるかもしれない。
これらのプロジェクトを監修しているDavidは気さくで親しみやすい教育者というだけでなく、アーティストとしての顔も持つクリエイティブな教育ディレクターである。次回は彼のインタビューを掲載する。