Electronics

2015.10.06

自作のデジタル時計を学校に持ち込んだ少年を警察が逮捕、そしてその後で起こったこと

Text by tamura

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写真:Dallas News

(編注:日本語版記事は、文末にリンクを掲載した複数の英語版記事を再構成しました)

なぜ、Ahmedは逮捕されたのか?

テキサス州アービングの9年生(日本の中学3年生から高校1年生に相当)、Ahmed Mohamedが手錠をかけられ学校から警察に連行された。彼は何をしたのか? 自作の時計を学校に持ってきたのだ。この事件を最初に伝えたのはDallas Morning Newsだった。

Ahmedの家族が中東出身だからこうなったと思いたくなる気持ちはわかる。たしかに人種差別的な要素があっただろう。だが、今はそこには触れない。人間性とプロジェクトにフォーカスを当てたい。

まず、時計は爆弾ではない。回路は爆弾ではない。爆弾が爆弾であるには、爆薬が必要だ。Makerとして多少の知識がある人間なら、これは単なる回路であるとすぐに見抜けるはずだ。しかし、爆弾というものを、映画でのみ学んだ人間だったなら、これが小道具の爆弾に見えないこともないだろう。

アービング警察の広報官、James McLellanがDallas Newsに語った内容のこの部分が気になる。

彼はこれを爆弾だと言ったという話は聞いていない。彼は時計だと言い張っている。しかし、それ以上の説明がない。これがもし、トイレや自動車の下に置かれていたとしてたら、そうした装置に見られてもおかしくない。問題は、なんのためにこれを作ったかだ。彼を拘束するかどうかだ。

しかし、彼は疑わしいことはひとつもしていない。疑わしい場所にそれを置いたわけでもない。彼は、彼がやってもいないことを、もしやっていたら誰かが驚くかもしれないという理由で、文字通り逮捕されてしまったのだ。この文章がみなさんの頭に混乱を招いたとしたら、この論理は狂っているという証拠だ。

だが、もし彼がそれを爆弾だと人に思わせるようなことを言っていたとしたらどうだろう。

Dallas Newsの記事もそこを指摘している。彼は誇らしげに、その日の一時間目の教師に時計を見せている。そして教師の意見を求めた。その教師は前向きな意見を話してくれたのだが、こうも言った。「他の先生には見せないほうがいい」と。言われたとおり、彼は他の先生には見せなかった。それが爆弾であるかのように思わせる言葉が彼の口から出たとは伝えられていない。しかし悪いことに、彼のバックパックにしまわれたその装置が発したビープ音を、別の教師が聞き、それが発見されてしまった。

私の妻は教員だ。私の子どもたちも学校に通っている。疑わしいものを発見した教師は、すぐに警察に通報してほしいと私も思う。しかし、その後で起きたことがこの事件を非現実的な方向に進めてしまった。もし、その装置を詳しく調べ、それを見せられた教師に立ち会ってもらい、彼の意見を聞いていたら、手錠をかけられて学校から拘置所に送られるなんてことになっていただろうか。彼は一時、停学になった。

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しかし、公開された装置の写真をよく見てみると、ケースはただの子ども向けの筆箱で(右上の電源プラグの大きさと比較してほしい)、その中はいくつかのパーツが時計回路に接続されているだけの単純な時計だ。通常のデジタル時計の中身と大差ない。大きな7セグメントディスプレイと、変圧用のトランスと、バックアップ用の9ボルト電池のスナップと、時間をセットするためのボタンのボードが見える。これらはメインのボードに接続され、それがディスプレイにリボンケーブルでつなげられている。

Ahmedはこれを作ったときは鼻高々だったろう。14歳といえば、ものを分解したり組み立てたりしたいという好奇心にかられる年ごろだ。これが学習と成長には欠かせないものであり、私たちはそこからテクノロジーを理解しマスターしてきた。彼の作品の意味と意欲を理解し、そうした創造的な情熱を伸ばしてやれる教師がひとりもいなかったのは、まったく残念だ。

起訴の取り下げとAhmedをサポートする声

その後、アービング警察は、Ahmedの逮捕に関する起訴を取り下げることを公表した(広報資料)。

Ahmedと彼の家族による記者会見でAhmedは「(教師が)あれに悪い印象を持ってしまったのは悲しいことです」と話した。しかし笑みを浮かべてこう続けた。「彼らが謝罪しないことは気にしていません。ボクには大勢の支持者がいるからです。すべての支持者のみなさんによって、謝罪はなされました」


ビデオ提供:ABC Breaking News

オバマ大統領にホワイトハウスへ招待されたら会に行くかと聞かれたAhmedが「はい」と答えたのは微笑ましかった。オバマ、クリントン、ザッカーバーグなどの著名人が関心を寄せていることについては、Ahmedはこう話した。「みんながこのアクションの、このムーブメントの一員であると知ってうれしく思っています。……ボクだけじゃない、地球上のみんなが仲間です」

Ahmedの逮捕と拘留のニュースによって、ソーシャルメディアはハッシュタグ #IStandWithAhmedで爆発した。「Twitter、Facebook、その他すべてのソーシャルメディアでボクを支持してくれてありがとう。ご支援に感謝します」と彼は言っている。「本当に驚きです。こんなに支持してもらえるとは思っていませんでした。しかし、これだけ助けてもらったので、ボクは自分だけではなく、世界中で同じような問題に苦しめられている子どもたちを支援したいと思います」

自分の情熱にブレーキがかかってしまった子どもたちに対して、Ahmedはこう助言している。「がんばれ! 他人のために自分自身を曲げてはいけない。それでまずい結果になったとしても、それをみんなに伝えて、自分の才能を示すんだ」

今回の事件をとおして、Ahmedをはじめとする、テクノロジーに深い興味を抱き誤解されてきた子どもたちの努力が、きちんと見直されることを私たちは望む。この事件に関する論議はまだまだ続いている。STEM(Science、Technology、Engineering、Mathmatics)教育を論じる人もいれば、人種問題を論じる人もいる。どの議論にも意味がある。ひとりの子どもが逮捕されたことから、大きな論議が巻き起こっている。

Makerはものを作る。私たちは、ロボットや時計やおもちゃやドローンやいろいろなものを作る。配線やデジタルディスプレイが向きだしになったものも少なくない。絶対に無害なプロジェクトのために逮捕されてしまうことを心配しなければならないなんてことは、あってはいけない。

(日本語版編注:その後、Ahmedとその家族は、9月26~27日に開かれたWorld Maker Faire in New Yorkにゲストとして招待されました)

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