Fabrication

2012.03.23

Makerビジネス ─ シャキーン! テレビゲームの郷愁漂うライト

Text by kanai


タッチセンサのスイッチで点灯し、同時にあの懐かしいゲームの音がする。(写真:Adam Ellsworth)
Makerスペースで湧き出たアイデアから、懐かしい魔法が甦ることがある。これは8bitlitの共同開発者、BryanとAdamのメッセージだ。コンセプトからプロトタイプ、さらに小規模ながら生産体制が整うまでに、彼らは2カ月を要しなかった。彼らのマリオブラザース風ペンダントライトは、間もなく販売が開始される。「シャキーン!」
去年の暮れ、Bryanはレーザーカッターでプロジェクトを切り出したり、建具で遊んだり、勉強したりと盛り上がっていた。蠕動ポンプ、Tスロット用ネジ留め式ケース、木の形のランプなど、いくつものプロジェクトが同時進行していた。彼は、レーザーカットした部品でスナップ式ジョイントを試作したり、アセトン溶接の実験もしていた。これらは成功した。これらの経験を活かして、次はどんなプロジェクトができるだろうか。アクリルの箱を作ることは、すでにBryanの数少ない計画のひとつに含まれていた。しかし、1980年代のマリオが世界を支配していた時代の子供として育った彼は、箱のアイデアが即座にマリオのブロックにつながった。彼は木の形のランプのプロジェクトを急遽方向転換して、はい! マリオのブロック型ランプのできあがり。

ランプの開発の様子や、元気なMakerコンビのBryan DuxburyとAdam Ellsworthは、Twitterの@8BitLitでフォローできる。1000人のファンにランプをプレゼントしてくれるそうだ。
ではどうやって作るか? 素晴らしいアイデアがあり、ソフトウェアもデザイン回路もよく知っていて、自らMakerでもあるBryanだが、ランプを現実の形にする手段がなかった。仕事も家族もあり、もうすぐ子供が産まれる彼にには、それを作っている時間もなかった。しかし、クリスマスパーティーでBryanがTechShopの会員であるAdamと出会ったときに光明が見えた。

昼間は、ソフトウエアエンジニアでRapleafのチームリーダーであるBryan Duxburyは、夜はバーチャルな世界から物理世界に戻ってくる。エレクトロニクス、レーザーカッター、3Dプリンタを少しかじり、また、愛する奥さんを休ませようと子供たちと走り回っているとき以外は、作家としても活躍している。彼のブログはblog.bryanduxbury.comで読める。
多くの人がそうであるように、AdamもまたMakerスペースでMakerとして育ってきた。工具も仲間も揃っている環境は、学んだり、教えたり、作ったりが日常だ。そこで自信と実力を身につけた彼は、製品開発のための素早いプロトタイピングが自分の行くべき道だと考えている。つまりAdamとBryanの出会いは、このベンチャーを実現させるための天の巡り合わせであった。気さくな会話はArduinoから始まり、やがてブロック型ランプの話になった。するとAdamは「作れるよ!」と即答した。それが12月15日のことだった。

Adam Ellsworthはこの3年間、MITでブレイン・マシン・インターフェイスを開発したり、無重力での3Dプリントや、スポーツ用のモーションセンシングなどに情熱を注いできた。高速プロトタイピングの達人である彼の目標は、人々を笑顔にするものを作ることだ。彼は今、エレキギターを作っている。そのほかにも、いくつものアイデアを模索中だ。
最初のプロトタイプはわずか2日でできあがり、そこから伝説が始まった。その後の2カ月間で、彼らは多くのことを学び、多くの困難に直面し、多くのうれしい成功を収めた。私が今これを書いている間、彼らは大きな可能性を秘めた新しい販売チャンネルの入口に立っているはずだ。
この製品の機能については、最初からはっきり決まっていた。ブロックは透明で、底にタッチセンサがあり、コインの音が出る。しかし、そのとおりに、しかも安く作ることは意外に難しかった。たとえば、安価なATTinyマイクロコントローラは魅力だったが、性能が不十分だという不安がぬぐい去れなかった。彼らが体験すべき未知の問題のリストは長いものだった。
プロトタイピングからは多くの答えが得られ、多くを学び、作り直すごとに改良が加えられていった。彼らはプロトタイプを研究した。アクリルはやめて、電子回路を変更して、作り方も洗練させた。何度も作り直した。完成品を作ったら、キットを作る余裕もできた。ペンダントライトにはスタンドのオプションも加えた。価格も考え直した。高性能なツールが自由に使えるようになったMakerの世界では、採算性のよい素早い改良が、現実的なビジネスの形として期待できるようになってきた。
開発中、仲間のMakerや熱心な愛好家のコミュニティから多くの助言が寄せられた。手で触るだけで点灯させる仕組みをもっとも安く作れる方法は? ATTinyマイクロコントローラを使うにはどんな設計アプローチが最適か? どうやってライトが点灯したときに音を鳴らすか? 彼らを助けたいという仲間たちの思いが、プロトタイプの改良を押し進めていった。
時間が経つにつれ、BryanとAdamは、自分たちが特別なものを作っているのだという確信が持てるようになった。多くの人にも製品を使ってもらい、彼らと同じ反応を見せるようになった。子供のころに熱狂したテレビゲームのあの形と音が心の中に甦る。ランプを点灯させたとき、人々は思っていた以上の楽しさを感じる。すぐに笑顔が広がる。マーケティングに関しては多くの難問が残っているが、この製品のコンセプトは間違っていないと彼らは確信している。
ラピッドプロトタイピングのおかげで、発売も早かった。最初は友人や家族にのみ販売されたが、すぐに彼らはEtsy.comのショップを開設した。そこでは彼らが自分たちで撮影したビデオが11,000ビューを記録した。上々のスタートだ。つい最近、この製品がビデオゲームファンのための製品サイト、Lootiful.comで紹介された。2月13日、まだまだ始まったばかりだが、明るいものが見えてきた。
彼らの行く手には、どんな障害が待っているのだろうか? 未知のあれやこれやだ。しかし、まずはスケールだろう。大口の注文が入ったときにどう対処するか。いきなり大ヒットして1,000個まとめて発注されたとしたら? 成功した製品は、みなこれに似た問題に直面する。嬉しいことではあるが、注文に追われて寝る間も奪われる。残念ながら、今日のMakerスペースのネットワークがこの問題に貢献できることは少ない。今後の課題だ。
現在、BryanとAdamは楽しくやっている。好きなものを作ること以上に楽しいことはない。客の期待を上回る製品を届ける以上の喜びはない。彼らは、このまま望む方向へ進んでいき、やがてはビデオゲームファンのための製品をビジネスにしていくだろう。次は何を作ってくれるのだろう。楽しみに待っていよう。「シャキーン!」
ここで紹介してほしい革新的な製品はありますか? 物作りの世界の新しいビジネス、Makerたちが力を合わせて製品を生み出した物語など、面白い話を知っていたら、MakerInnovation@me.comまでメールをください。革新的な製品やMakerに光を当てたいと思います。
– TravisGood
原文