Electronics

2013.04.04

中国で製造を行う:良い点と悪い点

Text by kanai

製造(大量生産)は、起業したばかりの企業にはリスクが高いものだ。すべてのリソースを投入して作ることは、もしうまく製造できなかったときに大変なことになる。また製造費が高すぎたときも困る。海外で製造する場合にリスクの管理はもっとも重要で、隠れたコストは書類上の節約を完全に消し去ってしまう。アメリカ国内の製造業者なら、新規参入者のリスクを大幅に減らしてくれる。海外の業者には望めない経験や専門知識で助けてくれる。資金の節約になり、高品質な製品ができる。

2012年の3カ月間、私は中国の深セン(深圳)に住んでいた。ハードウェアのスタートアップのプログラム、HAXLR8Rの一貫として、私の会社 Portable Scoresを軌道に乗せるためだ。滞在中、私はブログを書き続けた。目標は、中国での製造を学び、いくつかの工場を選択して、部品を探して、資金が準備できたときにのためにすべてを整えておくことだ。その3カ月間で私が学んだことは、それらをどうやるかということにとどまらず、やらないほうがいい場合があること、そして特に起業したばかりの場合は、資金だけではなく、リスク管理の問題もあるということだ。現在、私たちはアメリカ国内で製造することを決めている。

なぜ中国で作らなければならないのか

  • 部品と労働力が安い

これは絶対的な真実だ。部品代は数分の一。射出成形の金型代はものすごく安い。組み立てラインの労働力も労働組織化されていて、入れ替えが可能なので非常に安価だ。

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世界最大の電子市場、華強北にあるひとつの建物の一画の様子。製造業や小売り業者がひしめいている。部品リストを見せれば、ものの数分ですべて揃えてくれる。

  • 中国のインフラ

中国は、あらゆるものが何十年もかけて築かれてきたところだ。みんな大変に手慣れている。プラスティックや電子部品の供給ライン、物流などがしっかりと地に足を付けている。射出成形などはアメリカ人よりもうまい。大手クライアントが望めば、行政は文字通り山をも動かす(私は見たことがある)。長年それをやってきているので、彼らはそれを得意としている。今のところ、私が乗った最高の地下鉄は、深センのものだった。彼らはたった2年間で街全体を掘り起こし、効率的で使いやすい地下鉄網を作り上げた。

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私が知る限りで最高の地下鉄。すべてが清潔で、解説も親切だ。直感的なマップ、北京語、広東語、英語でのクリアな放送。

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保護ガラスには、電車の到着までの時間が表示される。乗車目標位置も示されていて、すべてがこの地下鉄の効率性と清潔さを作り上げている。

  • すべてが速い

供給ラインが確立されていて、みな1日10時間、週6日働くので、人々は互いの顔をよく知っていて、物事が非常に速く進む。プロトタイピングも速い。製品は瞬く間にできてしまう。会社だって、気がつかないうちに足下にできていたりする(私たちは、ある店が閉店して、売却され、改装され、まったく別のレストランとして再オープンするまで1週間足らずというのを目撃している)。

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この船は長い間係留されているうちに、その周りに深川ができてしまった。ここは Shekou Sea World(蛇口海上世界)の中だ。高級マンションやいかしたバーがある。少なくとも海岸から400メートルは離れている。

なぜ中国で作ってはいけないのか

  • 隠れた出費と、安さの本当の値段

上に書いたことは本当だ。しかし、これがすべてではない。たしかに部品は安いが、安すぎることもある。偽物が横行しているのだ。経費節約はギャンブルとなる。品質検査に合格する正規品を手に入れて、ユーザーの手に渡ったあと、保証期間を過ぎるまで働いてくれればいいが、そうでなかったら、その故障率は、節約した分でその埋め合わせができるほど低いだろうか? たぶん、そうはならないだろう。

ほかにもコストがかかる。高い確率で、あなたは中国へは2回飛ばなければならなくなる。1回目は工場を探しにいく旅で、もう1回は、生産ラインが整って製造を開始するとき、それを管理するための旅だ。この出張は1回あたり数千ドルかかる。それが会社のマージンに食い込む。

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正規品のように見える。カメラに入れて使うと、最初の数枚は撮影できるが、これらは偽物だ。ほんの数MBの容量しかない。

  • 中国の大ざっぱなインフラ

急速に発展し、どんどんよくなっているが、停電は日常だ。インターネットの速度は遅く、電話はなぜかよく切れる。水道の水質基準や汚染の基準が満たされていない。湿気も問題だ。だから、ものが歪みやすく、腐食しやすく、壊れやすい。

これらの問題は改良されつつあることは、言っておくべきだろう。中国人もこの問題をわかっており、より欧米風のビジネスに近づけて信頼関係を高めるための努力をしている。しかし、それには時間がかかる。皮肉なことに、中国では非常に品質がよいと信じられているアメリカ製品の人気が高い。中国人たちも、「メイドインチャイナ」の品質に関する評判については、ある程度本当であると承知しているのだ。

  • 遅延と輸送時間

何もかも速い中国だが、いきなり「レンガの壁」が現れて、すべてが停止することもある。たとえば、あなたがアメリカにいて、中国で射出成形をさせているとする。できたパーツの見本を取り寄せなければならないが、それには時間がかかり、作業時間が追加される。そしてこちらから作り直し部分の写真や図面を送るが、そこで誤解が生じることがある。これを解決するためには、直接現地へ赴くことだ。2月に製造するとしたら、中国の正月という問題が生じる。その間、すべての工場は作業を完全に停止する。そして、ほとんどの労働者が転職のチャンスを活かす。

しかし、考慮すべき最大の遅れは、輸送時間だ。香港からロサンゼルスまで、船便で18日から27日間かかる。税関で引っ掛からなかったとしても(新しい会社が何かを輸入しようとすれば、たいてい引っ掛かる)、そこからトラックや列車での輸送に数日かかる。この1カ月の輸送期間にも、製造が続けられている。届いた箱を開けて、すべてに組み立ての間違いや致命的なミスが見つかれば、少なくとも2カ月分の製品が無駄になることになる。もちろん、飛行機で輸送する手もあるが、費用は何倍にもなるため、マージンを食いつぶしてしまう。

アメリカの製造経験

地元で製造業者を探すことは、それ自体が冒険であり、会社を大きく成長させてくれるものだった。私たちは、Design-Conceptsの先生の協力で、まず地元のプリント基板組み立て工場の名前を探した。何件か見学して、私たちのプロジェクトと先方の能力について話し合った。話し合いのポイントは以下のとおりだ。

  • コストの透明性:起業したばかりの会社にとっては1セントだって無駄にはできない。どこにどうコストがかかるのかを見えるようにすることが、何をすべきかの判断の役に立つ。
  • 設備の充実度:キャパシティの150パーセントの仕事を依頼すれば、必ず遅れが生じる。
  • 釣り合い:彼らは同程度の規模の会社であるか、同程度の製品を扱っているか、同程度の量を作っているか、こちらが必要とする仕事を賄えるか、あなたの仕事を欲しがっているか、それとも嫌な客になっていないか。
  • セキュリティー:他の会社の秘密を漏らしてしまうような内容に関する質問に、先方は返答を拒否するかどうか。
  • 工程:顧客ごとにラインを区別しているか。RoHSラインを別にしているか。顧客ごとにすべてのやりとりや製品の組み立て方法を文書化しているか。
  • 従業員:よい環境で仕事をしているか。適切な工具を与えられているか。改善のための意見を言えるようになっているか。
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Universal Electronicsには複数のプリント基板ラインがあり、ハンダステンシル、ピックアンドプレースマシン、リフローオーブン、テストステーションが各ラインに並んでいる。

私たちが気に入った工場のひとつにUniversal Electronicsがある。大きな会社だが、オーナーが個人的に会ってくれて、プロジェクトを気に入ってくれた。その可能性を認めた彼らは、有利な支払い条件を示してくれた。Universal ElectronicsはSector67にも興味を示し、わざわざスペースを見に訪ねて来てくれた。彼らが携わっている開発キットのサンプルもくれた。そして、スモールビジネスに特化した別の工場があることも話してくれた。

さらに、私たちに部品流通業者のAvnetを紹介してくれた。Aventは、私に会ってプロジェクトのことを理解し、代わりとなるパーツを提示し、サンプルを送ってくれた。そして、照明ソリューション専門の技術者を引き合わせてくれたのだ。

その間、Universal Electronicsは見積もりを作り、もっと安く作れるかを調べるために部品を探し、私のコンポーネントリストを数人の専門家に送って、より安い方法を相談してくれていた。そして、彼らは数人のプロの無線専門家に私を引き合わせ、遠隔操作とBluetooth Low Energyに関して相談できるように計らってくれた。Peak Gain Wirelessは私のデザインを見て、いくつか助言をしてくれた。

共通のテーマはオープンであることと透明性だ。守秘義務契約に関する心配はない。彼らはサインをしてくれたが、顧客の秘密を漏らしたら自分たちの評判を落として仕事を失うことを、彼らもよく知っている。

彼らは、すべての起業コスト、労賃、部品と組み立て、テスト工程について明らかにしてくれた。しかも彼らとは1時間しか離れていない。オープンなポリシーを持っているので、いつでも立ち寄って組み立てを確認して、望む限りの首を突っ込むことができる。

もうひとつの共通のテーマは、製品を理解することだ。彼らは即座にそれを理解しただけでなく、彼らにはその製品の対象となる子供がいる。だから、何が重要で、何が重要でないか、どう改良したらいいかもわかるのだ。また、設計上の決断を誰が下すかについても理解していた。これは重要なことだ。なぜなら、製造に携わる人間は、何をすべきかを理解でき、品質や最終目標で妥協することなく、製品や組み立て工程を向上させるための助言ができなければならないからだ。

このすべてを、どのようにPortable Scoresにつぎ込むか

我々は小さな会社だ。すべての中小企業と同様に、決定的な資源が不足している。マンパワー、時間、資金だ。十分なマンパワーがあれば、中国に駐在させて監督をさせることでリスクを低減できる。大量に生産できれば、中国に人を駐在させる経費は大量生産の利益から捻出でき、筋が通る。十分な資金があれば、大きな失敗をしても会社が潰れることがない。これも筋が通る。しかし、どれも現実的ではない。そこで我々は、大胆な経費削減を行い、リスクを回避するために、地元で製造することにしたのだ。

    • 射出成形は、Jade Moldsというアメリカの企業が所有する中国の工場で行うことにした。オーナーは、中国の工場の近くに住んでいる。彼らは、2つある基準のいずれかを使って金型を作っている。アメリカの基準と中国の基準だ。アメリカ基準の金型は、中国で作ってアメリカに送る。早くて高品質な製品を、高度に自動化された押し出し機で作る。これは金型のBMWだ。数百、数千単位の少量生産で、非常に高精度で、冷却管などの機能も持つ。中国基準も悪くはない。ただし、共通の金型ベースのサイズで作られる。冷却管は付かないこともある。そのため、製品を機械から出す役目の人がそばにいる。そのような人たちのお陰で、我々は驚くほど安く、高品質な加工を実現できた。アメリカ国内でやろうとすると、10万ドル以上かかっただろう。 Jade Moldsなら3万から4万ドルだ。機械のそばに待機する人の人件費を考えても、2年間、部品を作り続けてさらに資金に余裕ができる。2年間作らなければ、膨大な回収不能なコストを出さずに済む。
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Jade Moldsの射出成形機械。非常に複雑な機械で、精密に削られた鉄製部品が大量に使われている。

    • プリント基板は中国で作る。私たちは、高品質なプリント基板工場を長い時間をかけて探してきた。そして、1枚12ドルで作ってくれる工場をカナダで見つけた。しかし、我々の現在の取引相手は1枚8ドルだ。この工場は前に訪れたことがある。プロトタイプを依頼したことがあったのだ。非常に質の高い製造業者で、アメリカの得意先も多く、いい仕事をしていた。環境汚染に関しても高い基準を守っていた。
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プリント基板工場を見学する私。

    • 一部の部品は中国から取り寄せる。品質があまり問題にならない部品がある。大きな経費節約になるし、リスクも低い。これらはアメリカ以外から入手する。
    • 一部の組み立ては中国で行う。スコアボードの上部に取り付けるスイッチの回路と、遠隔操作用の回路は、どちらも小さくてシンプルだ。部品数も少なく、エラーの許容範囲も大きい。それに、アメリカで作るよりずっと安い(10倍は違う。その証拠に見積書もある)。これらのコンポーネントは、以前私が働いていて、テスト済みのところだ。NOA Labsというドイツ人が経営する会社で、製品の基準が高い。
    • スコアボードの回路は、国内の、しかも30分ほどの近所にある Universal Electronicsで作ることにした。これは非常に重要なコンポーネントだ。ゴージャスでなければならない。高い精度が要求される。ここには我々のすべての知的財産が投入されている。そして、これがもっとも高価だ。失敗が許されない部分で、不良品を出したり、盗まれたりしたくない。
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回路表面に並ぶLEDはきれいでなければならない。手でハンダ付けするのでは品質が保たれない。

  • 最終テストと組み立てはアメリカで行う。ただし初回ロットは我々で組み立てる。よい組み立て工場が見つからなかったからではない。自分で組み立てて、品質に絶対的な責任を負いたかったのだ。それに、組み立ての障害になるようなデザイン上の欠点を探したかったのだ。より簡単に組み立てられるための、小さなことを見つけられるようになりたい。アライメントピンや方向の指示や対称パーツなどだ。ゆくゆくはアメリカ国内の企業に組み立てを依頼したいが、それは、そうすることが経済的に見合うだけの規模に我々が成長してからだ。我々の製品をみんなに披露して、それが何か、何に使うのかをわかってもらって、子供たちがこれを使ってスポーツを楽しんでくれる日が楽しみだ。製品への思い入れが、製品をよりよくしてくれる。

最後にひと言。私は最初に、アメリカで組み立てるつもりだと話した。「Made In USA」というラベルを貼るには、厳しい条件があり、基準が定まっている。少なくとも重要部品の90パーセントがアメリカ製で、それらが基準を満たしていることを証明する努力も必要になる。この基準を満たしながらコストを低く抑えるのは難しい。一般家電品ではなおさらだ。

我々は、できる限り地元の経済を支えたいと思っている。とくに、製品の製造に重要な地域を支持したい。会社が大きくなれば、雇用を増やせる。最終組み立てをする人を雇い、他の工程も地元に移し、リスクと外部への露出を低くしたい。

– Bob Baddeley

Bob Baddeleyはモンタナに育ち、オレゴン州立大学で2004年にコンピューター工学の学位を取得後、ワシントン州のPacific Northwest National Laboratoryに7年間勤務し、政府のために最先端研究を行った。同研究所を2011年に去り、Portable Scores を設立。スコアやターンや時間がわからなくなるのが嫌になって、スポーツに役立つものを作った。
Bobは現在ウィスコンシン州マディソンに住んでいる。ハッカースペース、Sector67の熱心なメンバー。彼はそこで、レーザーカッターを使って食品を切ったり、高高度気球を飛ばしたりしている。

原文