2012.01.18
Best of MAKE: クラウドファンドの年
Makeでは一般的な用語を使うべきなのだろうが、今のところ、我々にとって「クラウドファンド」は、基本的に「Kickstarter」と同義語だ。Make Onlineのアーカイブだけでも、Kickstarterで検索すると100本の記事が出てくる。初めて記事にしたのが2009年10月だった(MakerBeamのプロジェクト)。これに対抗できるメジャーなクラウドファンドのサイトとしてMakeで大きく扱われたのは、IndieGoGoだけで、記事の数は8本。そのうち、当時資金を募集中のプロジェクトとして直接リンクを張ったのはひとつだけだった(結果的に目標額には達しなかった)。
というわけで、建前はともかく、この記事は、Makeが見たKichstarterの1年という内容になる。2009年、マンハッタンに設立されたKickstarterは、その年、Make Onlineに掲載された記事は4本だったが、2010年には33本となり、2011年は62本を数えた。これには、ちょっと触れただけのものや、プロジェクトへのリンクがないものは含まれていない。また、特定のプロジェクトの続報記事も除かれている。2011年、Makeには24のKichstarterプロジェクトが紹介された。そのうち、Greg LeyhのLightning Foundryと、Eric StrebelのSolar Voxを除くすべてで、出資金が目標額を越えた。
もっとも多くの資金を集めたもの
2011年最大のKickstarterは、我々が定めた6つの基準のうち3つでトップとなったBrook DrummのPrintrBotで決まりだ。500ドルのFDM/FFFプリンタキットで、2011年の12月17日までに830,827ドルを集めた。この年、Makeが記事にしたプロジェクトの中で最高額であっただけでなく、Kickstarter史上2番目の額となった(Wikipedia調べ)。
- 830,827ドル — Printrbot: 初めての3Dプリンタ (Brook Drumm) — Makeの記事
- 259,293ドル — HexBright オープンソースの懐中電灯(Christian Carlberg) — Makeの記事(英語)
- 131,220ドル — The Oona: スマートホン用スタンド (Sam Gordon) — Makeの記事(英語)
- 114,796ドル — Romo- スマートホンのロボット(Romotive) — Makeの記事(英語)
- 96,248ドル — Trebuchette – はめ込み式卓上投石機(Michael Woods) — Make の記事(英語)
もっとも驚きだったもの
私が言うところの「驚き」とは、目標額をどれだけ超えたか。たとえば、PrintrBotの目標額は25,000ドルだったが、最終的に830,827ドル、つまり3300%となった。額もトップなら、超えた額もトップだ。その次は、Andrew HydeのRecord Monsters(上の写真)だ。レコード盤をレーザカットして虫や動物のモデルを作るという比較的素朴なプロジェクトだ。集まったのは15,000ドルに過ぎないが、目標額が500ドルだったと聞けば驚くだろう。
- 3,323% — Printrbot: 初めての3Dプリンタ (Brook Drumm) — Makeの記事
- 2,950% — Record Monsters – レーザカットで作るレコード盤パズル (Andrew Hyde) — Makeの記事(英語)
- 1,312% — The Oona: スマートホン用スタンド (Sam Gordon) — Make の記事(英語)
- 836% — HexBright オープンソースの懐中電灯(Christian Carlberg) — Make の記事(英語)
- 739% — Project ShapeOko: 300ドルで作れる CNC マシン(Edward Ford) — Makeの記事
ひとりあたりの出資額がもっとも多いもの
PrintrBotが460ドルでトップになった3つめのカテゴリー。後援者の人数で総出資額を割った平均出資額だ。第2位はEric Aganのisostick。ハードウェアレベルで光学ドライブをエミュレートできるUSBメモリだ。これがあれば、ネットブックなどのデバイスにOSをインストールするためにUSB外付け光学ドライブをいちいち持ち歩かなくてもよい。去年の7月、私も isostick に225ドルの出資を行った。つまり、159ドルの平均額よりも多く貢献しているわけだ。このプロジェクトに関するその後の経過については、この記事の最後を見てほしい。
- 459.53ドル — Printrbot: 初めての 3D プリンタ (Brook Drumm) — Makeの記事
- 158.97ドル — isostick – USBメモリの中の光学ドライブ(Elegant Invention) — Makeの記事
- 122.56ドル — The Lightning Foundry(Greg Leyh) — Makeの記事(英語)
- 108.11ドル — Solar Vox パーソナル USB 太陽光充電器(Eric Strebel) — Makeの記事(英語)
- 99.65ドル — Romo- スマートホンのロボット(Romotive) — Make の記事(英語)
ひとりあたりの出資額がもっとも少なかったもの
このカテゴリーのトップ2つは、奇遇にも同じカメラのレンズキャップをなくさないためのシステムだった。ひとつは私自身が記事を書いた。もうひとつはAdamが書いている。レンズキャップに関しては、多くの写真愛好家に共通する、よほど大きな問題になっているようだ。またこのカテゴリーには、2つのアート系プロジェクト(Matthew Goodman の Playa Time-Laspムービー と、Sandy Antunesの宇宙カリオペ)が含まれている。このランキング全体では、このほかすべてが技術開発系のプロジェクトで占められていることを考えると、興味深い。
- 21.60ドル — カメラレンズのキャップホルダ(Mark Stevenson) — Makeの記事(英語)
- 26.09ドル — The Nice Clip – ユニバーサル・レンズキャップホルダ(Nice Industries) — Makeの記事(英語)
- 32.04ドル — Playa Time-Lapse 2.0(Matthew Goodman) — Makeの記事(英語)
- 33.52ドル — The Oona: スマートホン用スタンド (Sam Gordon) — Make の記事(英語)
- 36.58ドル — Capturing the Ionosphere: 電離層カリオペ(Sandy Antunes) — Makeの記事(英語)
もっとも後援者が多かったもの
私は2011年の「総合次点」として、Sam GordonのOona: 自由に組み立てられるスマートホンスタンド・システムを推挙したい。PrintrBotと同様、我々が考えた6つのカテゴリーのなかの「もっとも多くの資金を集めたもの」と「もっとも驚きだったもの」など4つのカテゴリーで上位5つに入っている。しかし、これが一位に輝いたのは「後援者の多さ」ただひとつだった。「ひとりあたりの出資額がもっとも少なかったもの」でも4位に入っている。後援者ひとりの平均出資額は33.52ドルだ。
- 3,915 — The Oona: スマートホン用スタンド (Sam Gordon) — Makeの記事(英語)
- 3,156 — HexBright オープンソースの懐中電灯(Christian Carlberg) — Makeの記事(英語)
- 1,876 — Trebuchette – はめ込み式卓上投石機(Michael Woods) — Makeの記事(英語)
- 1,808 — Printrbot: 初めての3Dプリンタ (Brook Drumm) — Makeの記事
- 1,152 — Romo- スマートホンのロボット(Romotive) — Makeの記事(英語)
もっとも意欲的だったもの
世界最大のテスラコイルで自らの記録を塗り替えようとしたGreg Leyhは、Makeが紹介した Kickstarterプロジェクトの中で群を抜く目標額を掲げていた。第2位のプロジェクトの7倍以上だ。ご想像どおり、目標金額を集めることはできなかった。12月10日の締め切り時点で1割をわずかに超える程度に止まった。しかし、Gregの大いなる野望には拍手を贈りたい。じつに途方もない計画だったからね。
- 348,000ドル — The Lightning Foundry (Greg Leyh) — Makeの記事(英語)
- 48,000ドル — Trebuchette – はめ込み式卓上投石機(Michael Woods) — Makeの記事(英語)
- 35,000ドル — Solar Vox パーソナル USB 太陽光充電器(Eric Strebel) — Makeの記事(英語)
- 33,000ドル — 日本の放射能探知ハードウェアネットワーク(Marcelino Alvarez) — Makeの記事(英語)
- 32,000ドル — Romo- スマートホンのロボット(Romotive) — Make の記事(英語)
これまでとこれから
2011年にMakeで紹介したKickstarterプロジェクトは24件のうち、目標額かそれ以上の出資金を獲得できたのは21件(87.5%)で、失敗したのは3件だった。 Wikipedia(英語)によれば、全体の出資金獲得率は44%とのことだが、だからと言って、これは私たちが有望なプロジェクトの発掘に長けているという意味にはならない。大抵は、人気が高まったプロジェクトだけが、私たちのレーダーに引っ掛かるからだ。私は個人的に、Kichstarterで目標額を達成したプロジェクトだけを紹介するよう決めている。それは、まだ目標額に達していないプロジェクトを記事で紹介して欲しいというスポンサーからの多くの申し入れに対して、何を載せるべきかと思い悩む気苦労をなくすためだ。
本当に支援したいと思ってプロジェクトに出資する側に話を移そう。私の場合、Kickstarterに出資したことが1回だけある。上にも書いたがEric Aganのisostickだ。8月22日に目標額を達成したのだが、32GB isostickはまだ送られてこない。期限は確約されていないし、事業が始まったこともわかっている。Ericはまめにプロジェクトの進行状況を報告してくれるし、最初の興奮はやや冷めてきたものの、出資したときの気持ちは変わってないし、かならずその報酬を受け取れると確信している。
しかし、これがいいか悪いかは、人によって違うようだ。クラウドファンド革命の興奮の裏には、どうしても醜聞や反動がついてまわる。私がKickstarterに感じている問題は、現在の形では出資者と顧客との線引きが曖昧になっているという点だ。Kickstarterに出資を決めた人たちの大半は、顧客感覚だと思う。しかし、Kickstarterの利用規約には、出資者は投資家であると明記されている。出資に見合う報酬がかならず得られるとは限らないことが表されている。またはそのように暗示されている。それに、プロジェクトの不履行を知らせる明確なフィードバックチャンネルがないことも加味して、私はこう考える。お金に関する問題に共通することだが、健全な懐疑心は常に持っておくべきだ。
Kickstarterに関する体験から意見がある方は、どんどん知らせてほしい。
– Sean Ragan
[原文]