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2018.11.09

新刊『家庭の低温調理 ―完璧な食事のためのモダンなテクニックと肉、魚、野菜、デザートのレシピ99』は11/27発売!

Text by editor

●書籍紹介

「低温調理」とは、食材をポリ袋に密閉して、精密に温度コントロールされた水槽の中で調理を行うまったく新しい調理法です。従来の調理法では不可能だった食感や風味を実現し、誰でも簡単にプロの料理人と同じ結果を得られることが特徴です。本書は、世界初の家庭用投げ込み式サーキュレーターを独力で製品化した著者による、低温調理の本格的なレシピ集です。低温調理が知られるきっかけになった「完璧なステーキ」はもちろん、卵、魚介類、鶏肉、牛肉、豚肉、さらにデザートまで、あらゆる食材に、低温調理を活用する方法を紹介します。本書で紹介された各食材を加熱する基本の温度と加熱時間をもとに新しいレシピを作り出すことも可能です。

●編集担当から

本書の共著者の一人、Lisa Q. Fettermanは、世界で初めての家庭用投げ込み式サーキュレーター「Nomiku」の開発者としても知られています。試作品をMaker Faire New Yorkに出展して大きな反響を得て、その後、深圳のハードウェアアクセラレーターの協力を得て、量産化に成功したエピソードは、Dale Doughertyの『私たちはみなメイカーだ』で紹介され、本書でも冒頭にて触れられています。本書は、Makerムーブメントの成果のひとつとしても、価値がある書籍だと考えています。ぜひご覧いただけますとうれしく思います。

●書籍概要

Lisa Q. Fetterman、Meesha Halm、Scott Peabody 著
水原 文 訳
2018年11月27日 発売予定
B5判変形/292ページ(オールカラー)
ISBN978-4-87311-862-8
定価3,456円

◎全国の有名書店、Amazon.co.jpにて予約受付中です。


●訳者あとがき

 最初にはっきりさせておきましょう。「真空調理」と「低温調理」は同じものです。英語では「sous vide」といいます(元はフランス語なので「スーヴィード」と読み、「真空」という意味です――辞書を引いてみてください)。
 以前(といってもほんの数年前ですが)私が『Cooking for Geeks』(初版、2011年発行)を訳したときには、まだNomikuは設立されていませんでした。器材も業務用の高額なものしか市販されていなかったので、アマチュアは自分で部品を寄せ集めて作るしかなかったのです。それが今では多くの会社から家庭用の器材が販売されており、普通の家電量販店やホームセンターでも購入できるようになってきました。まさに隔世の感があります。
 それに伴って、かつてプロの間で「真空調理」と呼ばれていたこの調理法も、「低温調理」という呼び方のほうが主流となってきたようです(私としては、同じ読みでも漢字で「『定』温調理」と書くほうがふさわしいと思うのですが……)。そのため、この本では「sous vide」を「低温調理」と訳すことにしました。しかし最初に書いたように真空調理と低温調理は同じものですので、理論に関しては『Cooking for Geeks第2版』5章の真空調理に関する部分を読んでいただければ、さらに理解が深まるでしょう。
 ここでこの場を借りて、これから低温調理を始めてみようと思っている人(この本を手に取っている、あなたのことです!)へのアドバイスをいくつか書いておこうと思います。
 まず器材について。先ほども書いたように、低温調理用の器材は家電量販店やホームセンター、あるいはAmazonなどで購入できます。残念ながら、この本の著者の会社、Nomikuの製品を日本国内で入手するのは難しいようですが(日本語の「飲み食い」から名前が付いているのに!)、さまざまな会社からいろいろな特徴のある製品が発売されていますから、気に入ったものを1~2万円程度で買ってくることができます。
 しかし、もう少し手軽に始められる方法もあります。それは(すでにご存知かもしれませんが)ヨーグルトメーカーを使う方法です。いくつかの会社から、1℃単位で温度が設定可能なヨーグルトメーカーが数千円程度で発売されています。もちろん、専用の器材のように大量の食材を精密に調理することはできませんが、温泉卵数個や鳥のささ身程度なら十分にうまくできます。ただし、サーキュレーター機能がないので水温にむらが生じること(私の経験では、設定よりも数度高い温度で調理されてしまうことが多いようです)、ヒーターの電力が小さいので水温を上げるのに時間がかかること(あらかじめ水とお湯を混ぜて目標温度に近づけておくといいでしょう)には注意してください。すでにそのようなヨーグルトメーカーをお持ちの方、あるいは少ない初期投資で低温調理を試してみたい方には、手始めとしてこの方法がお勧めです。
 それから食材を密封するポリ袋についてですが、本文中にもあるように、高価な真空パックシーラーの必要はありません(もちろん、すでに持っている方はぜひ活用してください)。フリーザーバッグで十分ですが、購入する際には袋の底にマチがないものを選んだほうがいいでしょう。マチがあったほうが置いたとき安定するのでよさそうに思えるかもしれませんが、構造が複雑で折り返しや接合部分が多く存在するせいか、使っているうちに水が漏れてくることが多いようです。空気抜きの弁がついているものも避けましょう。シンプルが一番です。また、袋の口はスライド式のファスナーではなく、しっかりと密封できるダブルジッパーのものを選んでください。
 次はレシピについて。この本が卵のレシピから始まっていることからもわかるように、やはり最初に試すレシピとしては卵料理がお勧めです。スーパーで簡単に温泉卵が手に入る日本の人にとっては、トロトロのポーチドエッグにもそれほど感動は覚えないかもしれませんが、それでも自由自在にゆで加減が調節できるのは楽しいものです。お菓子作りが好きな方にとっては、カスタードが上手に作れるのもうれしいところでしょう(6章「デザート」を参照してください)。
 あとは肉ですが、低温調理というと完璧なミディアムレアに調理されたステーキを思い浮かべる方は多いと思います。確かにそれもおいしいのですが、私の一押しは鶏むね肉です。本文中に書いてあることの繰り返しになりますが、パサつきがちな鶏むね肉も低温調理ならしっとりとジューシーに仕上がります。また脂肪分が少なくヘルシーで値段も手ごろですから、週末にまとめ買いした鶏むね肉でツォ将軍のチキンやチキンティッカマサラを作り置きして冷蔵庫に入れておけば、忙しい平日の夜の頼もしい味方になってくれることでしょう。
 この本の著者はアメリカに住んでいるので、計量の単位が日本と違います。可能な限りメートル法に換算したものを角カッコ[]の中に示しましたが、カップ1の容量が違うことには特に注意してください。日本ではカップ1=200mlですが、アメリカではカップ1=240mlなのです。大さじ・小さじの容量は変わりません。また塩については「コーシャソルト」というものを使うことになっていますが、これはヨウ素が添加されていない塩を使うという意味です(アメリカの食卓塩にはヨウ素が添加されているため)。日本では普通の塩を使って問題ありません。「はじめに」には塩の種類によって同じ体積でも重さが違うので注意するように書いてありますが、岩塩など特に粒の大きな塩を使わない限り、あまり気にしなくても大丈夫でしょう。
 最後になりましたが、くれぐれも食品安全には気を付けてください。詳しくは「はじめに」に書いてありますが、基本的に55℃以下の調理では食材は殺菌されないので、調理時間を1時間以内とし、すぐに食べるのが無難です。低温調理は、食材をさまざまな温度や時間で調理する実験には最適のツールですが、そのような実験をする場合は常に食中毒のリスクを意識するようにしてください。
 この本に載っているレシピには珍しいものもありますが、日本や中国、東南アジアの料理など、比較的なじみ深いものも多いでしょう。しかし見慣れた料理であっても、この本で使われている低温調理などのテクニックには目新しいものがあると思います。そんな日々の食事をおいしくするためのコツを、この本の中から見つけていただければ幸いです。

2018年9月 水原 文

●本書で紹介されているレシピ

1章:卵 27
 低温殺菌「生」卵
 じっくり(63℃)ポーチドエッグ
 エッグ・フロレンティーンと泡立てのいらないオランデーズソース
 卵黄のフライ
 時短(75℃)ポーチドエッグ
 ウズラの卵とジャガイモのブリヌイ
 生ハムとマンチェゴチーズ、サルサ・ベルデ入りブレックファスト卵サンドイッチ
中国風ティーエッグ

2章:魚介類 45
 帆立の刺身、グレープフルーツとユズのヴィネグレット
 オヒョウのトスターダ
 ギリシャ風タコのサラダ
 ベトナム風えびの生春巻き
 かんたんガーリックシュリンプ
 サーモンとみそフェンネルサラダ
 ビール衣のフィッシュアンドチップス
 マスのオイル煮
 ロブスターのバター煮、コニャックソース

2章:鳥肉
 鶏レバーのムース、グリルしたパンとイチジク添え
 鶏手羽のジャークチキン
 シラチャチキン
 チキンカツ
 ベトナム風カラメルチキン
 チキンティッカマサラ
 ツォ将軍のチキン
 完璧なフライドチキンとワッフル、ハチミツホットソースのシロップがけ
 鴨のむね肉とアプリコットのモスタルダ
 鴨のコンフィとフリゼのサラダ
 鴨のモレ・ロホ
 ウズラのザータル
 七面鳥のミートボール、モッツァレッラチーズとバジル詰め
 感謝祭の七面鳥

4章:豚肉、牛肉など
 モロッコ風ラム肉のミートボール
 豚肉のサテとピーナッツソース
 台湾風豚ばら肉の蒸しパンサンドイッチ
 豚角煮ラーメン
 骨付き豚ばら肉のアドボ
 カロライナ風プルドポークのサンドイッチ
 プエルトリコのパーニル
 ポークチョップと夏野菜のサコタッシュ
 豚ヒレ肉のコーヒースパイス風味、ワイルドライスと赤キャベツのコールスロー添え
 完璧な真空調理ステーキ
 カルネアサーダのチミチュリソース
 8時間スカートステーキとマッシュルームのバルサミコ酢あえ
 牛ヒレ肉の赤ワインソース
 友三角のステーキチリ
 骨付きラム肉の香草パン粉焼き
 スタウト照り焼きショートリブ
 大絶賛のパストラミ

5章:野菜
 クリーミーな冬カボチャのスープ
 ヤギ乳ゴーダチーズとピスタチオのビーツサラダ
 ニンジンとヨーグルトディルドレッシングとヒマワリの種
 アスパラガスのグリルとロメスコソース
 サツマイモのタコス
 サヤインゲンのアマンディーヌ
 冬カボチャのタイグリーンカレー
 パースニップの照り煮とローストヘーゼルナッツ
 ピリ辛クラッシュポテト
 イギリス風チップス
 完璧なマッシュポテト
 カリフラワーのガラムマサラ風味
 万能マッシュルーム

6章:デザート
 バニラクレームブリュレ
 チョコレートポドゥクレーム
 マイヤーレモンカード
 スパイス入りナシの香り煮
 パースニップケーキ
 かんたんバニラアイスクリーム
 チョコレートアイスクリーム
 塩キャラメルアイスクリーム
 ナッツバターアイスクリーム
 なんでもフルーツアイスクリーム
 シナモンアップルアイスクリーム
 アポガート
 生キャラメル(ドゥルセ・デ・レチェ)
 アルフォーレス

7章:カクテルと風味抽出液
 ピンクペッパーとハイビスカスのビターズ
 パンプキンスパイスのビターズ
 コーヒーとカルダモンのビターズ
 自宅風味抽出ジン
 自家製トニックシロップ
 こだわりのジントニック
 自家製ジンジャーシロップ
 ダーク・アンド・ストーミー
 ペニシリン
 パンダン風味のクリーム・オブ・ココナッツ
 ピニャ・カヤーダ
 グレープフルーツとアールグレイのテキーラ
 グレープフルーツとアールグレイのマルガリータ
 フェンネルのリキュール
 ビッグ・イージー・ダズ・イット
 ホットアップルシードル

8章:常備品、ソース、調味料
 クイックピクルス
 失敗知らずの自家製ヨーグルト
 リスクなしのマヨネーズ
 かんたんマリナラソース
 ガーリックコンフィ
 自家製ストック
 かんたんハーブ入りクランベリーソース
 七面鳥の詰め物もどき