Fabrication

2020.10.22

「Maker Faire Tokyo 2020」レポート #3 — 3Dプリンタの生成物をものづくりの工程に利用する「野良雲焼」プロジェクト

Text by Takako Ouchi

今年も、さまざまな作品が登場したMaker Faireだったが、その中から「野良雲焼」プロジェクトを取り上げたい。これは、3Dプリンタの出力物を原型に焼き物を作ろうというtinker.jpさんのプロジェクト。これは、モデリングソフトを使ってデザインしたものを3Dプリンタで出力し、それで磁器を作るというものだ。3D出力したものがベースで、まず、そこからシリコンで型(分割したもの=割型)を取る。最終的にこの部分を石膏にするため、いったん反対側の型を取り、石膏で再度、型を取る。


形状確認モデル(FDM方式で出力)


シリコンでの型取り用モデル(データ上でメス型を作成し、SLA方式で出力)


シリコンでオス型を取る


シリコンのオス型から石膏でメス型を取る

できあがった割型を合わせ、液状の粘土を流し込み、乾燥させて固める。余分な土を抜き取り、乾燥させて型を外し、電気窯で素焼きする。釉薬をかけて本焼きという流れになる。これは分割した割型を使う「ガバ鋳込み」と呼ばれる伝統的な成形方法だ。

なぜ、最初のシリコンの型で直接成形しないのかというと、石膏が水分を吸収することがこのガバ鋳込み成形のキモだからだ。とはいえ、ここに至るまでの成形のプロセスもかなりの試行錯誤をしたという。


5つのパターンを検討(tinker.jpより)

どこまで3Dプリントで、どこから石膏かのチョイスだ。また、釉薬のかけ方もスプレーガンを使うなど、釉薬に付ける方法では厚さやムラが出ることからスプレーガンを使うなど、さまざまに試している。


釉薬の液につけて焼いたもの


スプレーガンで塗ったもの

さらに、焼き上がったときに縮んでしまうことから、その収縮を前提としたモデル出力など、まだまだ研究は続いている。個人のレベルで陶芸をするというと、手びねり、もしくはロクロを使って造形するイメージだが、手びねりでは薄く整った形にするのは難しい。そもそもロクロを使うには相当のスキルが必要で、誰でもすぐにキレイな形が作れるというわけではない。その点、モデリングツールやプログラミングでデザインすれば、(そうしたツールの知識や経験は必要だが)形を作ることに不慣れな人でも取り組みやすい。サイズの調整もデータ上で自由にできる。

もちろん、3Dプリンタのフィラメントも今やさまざまな種類が開発され、金属に続き、セラミックスが調合されたものも出ている。ただ、一品ものではなく、ある程度、汎用品を作ることを考えると、製造のプロセスに3Dプリンタをうまく活用することには大きな可能性がある。つまり、大量生産ではなく、小ロットで食器や日常的に使う磁器を作りたいとき、こうした3Dプリンタの活用が期待できるということだ。デジタルファブリケーション機器の普及の方向性として、ユーザー数を横に広げること以外に、縦の幅、活用の仕方・バリエーションを増やすことも必要で、そうした後者の動きがやっと表出してきたということなのだろう。

「野良雲焼」プロジェクトでは、いろいろな知見がクラウドベースで集まっているという。個人の秀でた技術による陶芸、あるいはさまざまなデータがしっかり管理された大規模な機械による製造とはまた別の、作り方ができあがりつつある。