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2026.10.28

「Kyoto Micro Maker Faire 2026」会場レポート:躍動するYoung Maker ― 生徒が運営するファブスペースにリサイクル樹脂のペレット式3Dプリンターなど、学生・生徒が主役の初めてのMaker Faire

Text by Yusuke Aoyama

2026年4月26日(日)、「Kyoto Micro Maker Faire 2026」が京都工芸繊維大学 松ヶ崎キャンパスの60周年記念会館(京都市左京区)で開催された。1日限り、入場無料の開催で、出展者は43組。会場となったホールには開場直後から多くの来場者が詰めかけ、終日にぎわいが途切れることはなかった。


会場となった京都工芸繊維大学の60周年記念会館の入口

京都でのメイカーフェアは、2019年5月の「Maker Faire Kyoto 2019」を皮切りに、2023年、2024年と開催されてきた(2020年は中止、2021年はオンラインのみでの開催)。いずれも2日間の会期で、出展者も100組から200組と、東京に次ぐ規模のメイカーフェアとして定着していた。

今回はそこから趣向を変え、“学生の街”である京都にふさわしい形を模索して、学生メイカーの出展を中心にした「Young Maker Edition」としての開催となった。出展者の募集は「学生・生徒」と、それを支援する「企業(スポンサー)」に限定されている。もちろん、学校単位でメイカーフェアに参加すること自体は珍しいことではない。STEAM教育はメイカームーブメントに由来する面も大きく、Maker Faire Tokyoでも若い作り手を対象にした「Young Maker」のカテゴリを設け、そこでの参加者を対象としたコンテストも実施している。ただ、学生・生徒だけを対象にしたメイカーフェアとなると、これが初めての試みだ。

運営面では、会場となった京都工芸繊維大学のKYOTO Design Labが共催として加わった。会場の提供にとどまらず、手作りのミニチュアカーでレースを競うワークショップ「Nerdy Derby Kyoto|ナーディーダービー 京都」をKYOTO Design Labで実施するなど、実務面でも大きな貢献があったことを記しておきたい。


ナーディーダービーのレース。ジャンプ台から飛び出したマシンを親子が見守る

来場者は社会人から学生・生徒、親子連れまで幅広い。京都工芸繊維大学のキャンパスは住宅街のなかにあり、その土地柄か、未就学児や小学校低学年の子どもを連れた親子の割合が、ほかのメイカーフェアより多いように感じられた。


アーチ状の梁が架かるメイン会場は、通路が埋まるほどのにぎわい

このレポートでは、単に作品を紹介するのではなく、「誰が、どんな場で、なぜ作っているのか」に注目して、中高生から高専・大学のサークル、そして大学院の研究室へと、作り手の段階を追いながら会場の展示を紹介したい。なお、すべての出展を網羅できているわけではないことは、あらかじめお断りしておく。

メイカーの土壌になる中学・高校

メイカーフェアの主役は、個人や仲間とともに自分たちの好きなように腕を振るうメイカーだ。けれど今回の京都で目立ったのは、学校という場そのものがメイカーを育てている、という光景だった。授業や部活、あるいは生徒自身が運営する設備のなかで、ものづくりが一過性のイベントではなく日常の文化として根づきはじめている。まずは中高生たちの現場から見ていきたい。

立命館中学校・高等学校(A-12)のブースで語られたのは、完成した作品よりも、それを生み出す「場」の話だった。同校には2025年9月に開設されたファブスペース「ミラボ」があり、3Dプリンターやレーザーカッター、UVプリンターといったデジタルファブリケーション機器が一通り揃っている。生徒なら誰でも利用でき、授業でも放課後でもさまざまな作品作りに取り組めるのが特徴だ。そして、その運営と利用する生徒の支援を担っているのが、生徒グループの「TCT」である。今回の出展も、このTCTのメンバーによるものだ。


ファブスペース「ミラボ」を紹介するチラシ

TCTは単なる部活とは異なる。ミラボの運営を通して設備の管理や、利用する生徒とのコミュニケーションを担う必要があるため、参加にあたっては審査があり、既存のメンバーからの承認が必要だという。その一方で、機材の一部は教師の監督なしに生徒だけで使うことができる。管理を厳しくして遠ざけるのではなく、責任を引き受けた生徒に裁量を渡す。その設計が、自由な作品を生む土壌になっている。

展示されていた作品の特徴は、振れ幅が大きいところ。建築に興味がある生徒は、自ら設計した住宅の模型を3Dプリンターで制作しており、ガレージ付きの2階建て住居の間取りや構造が精密に再現されていた。

かたや「TO塔」は、洋式便器と、そこから激しく噴き出す水流を自らモデリングして大小さまざまなサイズでプリントし、それを積み上げて塔にしたアート風の作品だ。タイトルは「TOTO」のブランド名と重ね合わせたもの。


便器から噴き出す水流を積み上げた「TO塔」。左は住宅模型

この振れ幅の大きさが、そのまま場の風通しのよさ、活動の自由さを物語っていた。こうして身につけたスキルは、オリジナルキーホルダーをMDFとレーザーカッターで製作して新入生に配布するといった活動にもつながっているそうだ。

ミラボとTCTでの活動をきっかけにメイカー活動に目覚めた生徒もおり、現在TCTの代表を務める高校3年生は、Maker Faire Tokyo 2026への出典を目指しており、そのための新しい作品も作りたいと話していた。学校の設備で芽生えた興味が、個人の表現へと地続きに伸びていく。その移行が起きていること自体が、ミラボという場の成果と言える。

広島工業大学高等学校(D-14)が紹介していたのは、2022年に設置された「K-STEAM類型」というコースだ。普通科や難関大学を目指す特別コースとは別に、生徒の「やってみたい気持ち」を引き出すことを狙ったSTEAM(科学・技術・工学・芸術・数学)教育のコースで、「総合的な探究の時間」にSTEAMの授業を置いている。校内にはファブラボが整備され、3Dプリンターやマイコンを使ったラピッドプロトタイピングを実践するなど、メイカー的なスキルによるものづくりを学べる、全国でも希有なカリキュラムを持つ高校だ。


卒業製作の「ミニピアノ」(中央)と、2年次の電子工作作品「まうす」(右)

ブースには、生徒の身近な疑問やアイデアを出発点に、試行錯誤しながら形にしていった授業の成果物が並んでいた。1年次のロゴ制作から、2年次の電子工作を組み合わせた作品、3年次の卒業製作まで、学年を追って作品の難度が上がっていく様子が、そのままカリキュラムの紹介になっている。さらにステージプログラムでは、生徒自身が登壇して、K-STEAM類型のコースと自分たちの取り組みを来場者にプレゼンテーションしていた。


ステージ発表のスライド。K-STEAM類型の紹介や自主製作が並ぶ目次

注目したいのは、ここで育つ素養が理工系の進路だけに閉じていないことだ。K-STEAM類型で学ぶ生徒の進路は、ITやエレクトロニクス、工学の分野に限らず、建築や土木、芸術といった領域にも広がっているという。ものづくりを通じて身につける手を動かす力や設計の発想は、特定の職業に直結する技術というより、分野を越えて応用が利く汎用的な構えに近い。授業のなかでモノを作って終わりではなく、ステージ発表のように外へ開いていくこと、そして進路の多様さそのものが、STEAM教育が一過性の流行ではないことを示している。

関西学院中学部 理科部(A-5)は、兵庫県の関西学院中学部の理科部で、男女約40人が所属する。学校の文化祭だけでなく、科学館など学校外でも展示やワークショップを行っているそうだ。ブースで行っていたのは、来場者が回転数とトルクの関係を体感できる歯車のワークショップ。そして、歯車で動く巨大な歩行メカ恐竜「GARIUS(ガリウス)」の展示だ。


ワークショップで組み立てる、色とりどりの3Dプリンター製の歯車

ワークショップでは、歯数の比が1対9の歯車を3つ、3Dプリンターで印刷した台座にネジで固定して組み立てる。歯車も台座も3Dプリンター製で、ネジは木ネジ、工具はプラスドライバー1本と、組み立て自体は非常に簡単だ。けれど歯車は、単に隣の歯車へ回転を伝えるだけではない。歯数の異なる歯車を組み合わせると回転数が変わり、回転数が変われば伝わる力の大きさ、つまりトルクも変わる。それを手回しで体感できるのが、このおもちゃの肝だ。

「GARIUS」は、全高2メートルを超える恐竜ロボットで、昔からあるゼンマイで歩くおもちゃの構造を数十倍に拡大したもの。歯車とリンク機構で足を交互に持ち上げて前進する。フレームは木材、歯車は3Dプリンター製、軸は塩ビパイプ、動力は電動ドリルと、すべて中学校の技術科の授業で学ぶ内容の範囲で作られている。重量があってギヤなどへの負荷が大きいため、連続稼働はできないとのこと。目を引くのは規模感だが、語られたのはむしろ、これらがすべて技術科の範囲で作れるものだという事実だった。


「GARIUS」の頭部。木製フレームに3Dプリンター製の歯車が付く

GARIUSはMaker Faire Kyoto 2024で初登場したもので、今回展示されていたのはそのときと同じ機体だ。当時は技術科の教員による「技術教室グループ」としての出展で、理科部の顧問を務める技術科の教員は、そのときも3Dプリンターなどを授業でどう活用するかを紹介していた。派手な完成品の裏側にあるのは、特別な設備や予算がなくても、技術科という既存の枠組みのなかでここまで作れる、という実践知だ。教える側がメイカーフェアに立ち続けていることが、生徒たちの活動を支える地盤になっている。

社会と地続きのものづくり──高専・学部サークル

中高生の現場が「学ぶ場」だとすれば、その先にあるのは、作ったものが実社会と接点を持ちはじめる段階だ。高専や大学のサークルでは、誰かの困りごとを解決したり、卒業後も作り続けるための土台を築いたりと、ものづくりが趣味の内側で完結しない。ここでは、そんな二つのサークルを見ていきたい。

大阪公立大学工業高等専門学校の学生が集まる「革新的製品研究会」(C-9)は、実社会で役に立つ新しいモノを作り出すことを目的にしたサークルだ。世の中の小さな課題──彼らの言葉でいう「ペイン」──を、3Dプリンターなどを使ったものづくりで解決していく。ブースに並んでいたのは、実際に学外から依頼を受けて作り上げたアイテムだった。


「かもめめ」。ハンドルの先に、ボトルを入れたホルダーを取り付けた状態

一つは「かもめめ」。淀川など大阪市内を運航する観光船「御舟かもめ」からの依頼で開発した多用途ドリンクホルダーだ。ハンドル部とホルダー部が分離する構造で、陸ではハンドルにペットボトルをまとめて取り付けて持ち運び、船上では手すりに設けたジョイントにホルダーを差し込む。これで遊覧中も飲み物を手に持たずに済む。面白いのはドリンクホルダーにとどまらない工夫で、ホルダーの底面が透明になっており、ハンドルに付けた状態で船上から水中を覗き込める。スマホを録画状態にして中に入れれば、水中の様子を撮影することもできるという。底面に発光ユニットを取り付ければランタンにもなる。現在は実際に「御舟かもめ」で使われているそうだ。

もう一つの「キャップクリップ」は、大阪大学の研究室からの依頼で製作したものだ。汚水枡から検体を採取するための道具で、棒の先端に取り付け、クリップに検体採取用の匙を挟んで使う。棒で採取し、手を触れずに匙ごとアンプルへ格納できる。洗濯ばさみを棒の先にくくりつければ似たようなことはできるかもしれないが、研究用の検体採取では、できるだけ人の手が触れない状態で採取から格納までをスムーズにこなせることに意味がある。誰かの具体的な「困った」から出発している点が、このサークルの作品に一貫した手触りを与えていた。活動の様子はサークルのウェブサイトでも紹介されている。


「キャップクリップ」。クリップ部に検体採取用の匙を挟んで使う

関西大学の大学院生が集まる「関西大学誰も定時で帰れない会(DTK)」(C-10)の発足理由は、そのままこの章のテーマにつながっている。社会人になってからもものづくりやメイカーフェアへの参加を続けるための足がかりにしたい、というのが集まりの動機だそうだ。過去には「関西大学電気通信工学研究会」としてMaker Faire Kyoto 2024にも参加しており、活動は前身のサークルから地続きに続いている。


木製のお堂を備えた「煩悩を祓う除夜の鐘」。手前は賽銭箱

展示作品も、その「続けること」を体現していた。「IC虫」は、長辺に端子が並ぶSOPパッケージのICの形状を虫に見立て、走らせてしまった作品だ。小型バッテリーと振動モーターを積み、振動で前進する。「ちゅうにずむ擬き」は自作の音ゲー用コントローラで、キーが端子になっており、手首に付けた端子とキーの間を人体が導通することによる抵抗値の変化を読み取って入力を検知する。左右の板には赤外線LEDとフォトダイオードが仕込まれ、板の間を腕が横切ると反応する仕組みだ。当初はもっと無骨な外観だったが、音ゲーをより楽しむために少しずつ改良を重ね、今の形にたどり着いたという。「煩悩を祓う除夜の鐘」は、お賽銭を入れると鐘を4方向から連続で突き、高速で煩悩を祓ってくれる装置。過去のモデルより小型化し、木製のお堂も作られたことで、ぐっと「鐘」らしくなった。あいにく当日はメカの調子が悪く、鐘が鳴る様子は見られなかったが、作っては直しを繰り返してきた蓄積そのものが展示されているようだった。


「ちゅうにずむ擬き」。金属板のキーと、手首に付ける端子のバンド

研究としてのものづくり──大学院

作り手の成熟段階をたどってきた流れは、大学院の研究室にいたる。ここでのものづくりは、素材やメカニズムそのものを問い直す研究の一部だ。工学・素材系の三つの取り組みを見たうえで、最後に少し毛色の違う一つを並べて、この章を締めたい。

京都工芸繊維大学の大学院で建築を学ぶ芳澤海飛さん(D-10、Erwin Viray Lab)が研究しているのは、リサイクルポリエステルをフィラメントではなくペレット(粒状)のまま扱えるペレット式3Dプリンターでの造形だ。一般的な家庭用3Dプリンターは、素材を糸状に加工したフィラメントを溶かして造形する。これに対しペレット式は、フィラメントになる前段の粒をスクリューで溶かしながら押し出して成形する。多くの樹脂はもともとペレットの状態で供給されるため、ペレットを直接使えれば扱える素材の幅が広がり、複数の素材を自分で配合することもできる。ノズルを大きくできるので、フィラメント式より速く、大きな造形が可能になるのも利点だという。半面、ノズルを細くすることが難しいため、PLAなどを使う一般的な3Dプリンターのような細かく精密なプリントには向かない。


赤と白のリサイクルポリエステルのペレットを混ぜて出力したランプシェード

芳澤さんがまず取り組んだのは、ペットボトルのキャップなどを粉砕して素材にすることだった。出力に失敗したものも、破砕すればそのまま再びプリントに回せる。ただし、キャップの主成分であるPPやPEは粘性が高く、出力が安定しにくい。そこで、3Dプリンターの廃材であるPLAを粉砕して混ぜることで安定させたという。この素材で印刷したキャップの回収ボックスをイベントに置き、参加者が持ち寄ったキャップを分別・リサイクルしてキーホルダーに生まれ変わらせる、という企画も行っているそうだ。

研究の本体は、廃棄衣類の人工繊維を樹脂に戻す技術を持つ株式会社エコログ・リサイクリング・ジャパンとの共同研究で、回収繊維製品由来のリサイクルポリエステルのペレットを、添加剤を加えずに安定して造形することを目指している。反りや割れを抑えるために添加剤を加えるのが一般的な手法だが、あえてそれをせず、造形中に素材が反っていくことを許容して、ノズルの動きにあらかじめ上下運動を加えておくといった「デザインで解く」アプローチを試みているとのこと。ブースには、卓上型と大型の2台のペレット式3Dプリンターで、赤と白のペレットを混ぜて出力したランプシェードが並んでいた。入口と出口が狭い卓上型では赤と白が分かれて積層され、大型機ではマーブル状に混ざり合う。同じ素材でも機械によって表情が変わるのが面白い。素材の循環そのものを設計に織り込む発想が印象的だった。なお、KYOTO Design Labで行われたナーディーダービーのトロフィーも、このリサイクルポリエステルのペレットで出力されたものだ。


ナーディーダービーのトロフィー。星や旗の部分がリサイクルポリエステル製

同じく京都工芸繊維大学の大学院生・藤澤麻衣さん(D-12)の「帰する貝」は、食用にされたあと多くが廃棄される貝殻に、新しい役割を与えようとする素材研究だ。廃棄貝殻を電気炉で焼成し、そこに植物の灰(仏壇の香炉用のもの)と、陶器の原料であるカオリン、そして水を混ぜると、通常のセメントのように硬化する。環境負荷が少なく、循環性を持つバイオベースセメントの実現を目指しているという。


「帰する貝」のプロトタイプ。配合や条件を記したカードが添えられている

約1年前に実験を始め、現在はプロトタイプ09まで到達している。始めた当初は手で簡単に崩れてしまうほど脆いものしかできなかったが、配合する素材、混合比率、硬化までの環境と、条件を一つずつ変えながら試行錯誤を重ねてきたそうだ。混ぜて余ったものをラップに包んで保管していたら固まり、想定以上の強度が出たといった発見もあったのだとか。単に固いものを作るだけならある程度のところまで来たが、扱いやすさや見た目の美しさなど、まだまだ研究の余地があるという。素材と向き合いながら「どんな未来を描けるか」を問う姿勢が、この研究を工学の枠に収まらないものにしていた。


貝殻から硬化したサンプルまで、素材の循環を矢印で示した展示

京都工芸繊維大学大学院のメンバーによる「S-phere」(B-4)が展示していたのは、2自由度のアームロボットだ。もともとはあるロボット競技大会に向けて開発したものだが、今はマテリアルハンドリングをはじめさまざまな用途に転用できるハードウェアとして、勉強を目的に改良を続けているという。アームは2軸で、競技に応じて長さを変えられる。


台車に組み付けられた「S-phere」の2自由度アームロボット

とりわけ目を引いたのが、ハンド機構だ。カメラの絞り(アイリス)を模した構造になっており、1個のモーターだけで把持部を開閉できる。アーム長やハンドを交換することで、対象や用途に合わせて幅広く転用することを目指しているとのこと。このアイリスハンドは高く評価され、スポンサーのローム株式会社から「ヤングメイカー賞(Young Maker Blue Ribbon)」を受賞している。同社のXアカウントは、カメラレンズの絞りでモノをつかむというアイデアのユニークさを授賞理由に挙げていた。


絞りを模したアイリスハンド。名札には「ヤングメイカー賞」のリボン

──ここで、視点を少し変えたい。

工学や素材の研究と並べると、成安造形大学 デジタルクリエーションオープンラボ(D-7)の「Up-2」は、明らかに毛色が違う。コンセプトが先行した作品だ。学生メンバーが考案したUp-2は、布から切り出したパーツをブロックのように組み合わせて、衣服や小物、かばんなどを作れる。


トルソーに着せた「Up-2」。布のパーツを留め具でつなぎ合わせる

肝は、パーツを組み替えることで形を変えられる構造にある。子どもの成長や暮らしの変化に合わせてサイズを調整したり、別のものに作り変えたりすることで、一つの素材を長く使い続けられる。名前の由来は「up to(あなた次第)」で、衣服から住空間まで、生活のすべてを境界なくデザインできる、という発想だそうだ。ここには「作る技術」から一歩進んで、「作り変えられるように設計する」という視点がある。ものを完成品として囲い込むのではなく、変化に開いておく──若い作り手たちの関心が、この段階になると設計思想そのものへ及んでいることを、Up-2はよく示していた。


「Up-2」のコンセプトパネルと、マネキンに着せたドレス

企業も“サークル”として

学生を中心にしたメイカーフェアだが、彼らを支えるスポンサーとして企業も出展していた。とはいえ会場での佇まいは、製品PRの構えというより、社内の有志が手を動かして楽しんでいる「サークル」に近い。ここでは二つのブースを軽く紹介したい。

株式会社島津製作所(D-3)は、今回スポンサーの一つとして参加した。京都に本社を置く同社は、スポンサーとしての参加に加えて、社内のものづくりサークル「モノトコ」も併せて出展している。「モノトコ」は、浜松のメイカーフェアやMaker Faire Tokyo 2025でNHKの『魔改造の夜』に出場したモンスターを、Kariya Micro Maker Faire 2026では「ポエム印刷機」をはじめとする部員たちの普段の作品を展示してきた、メイカーフェアの常連だ。京都のブースでは、『魔改造の夜』への挑戦と社内でのものづくり活動を紹介するとともに、子ども向けのスタンプラリーも行っており、親子連れでにぎわっていた。ステージプログラムでも「NHK『魔改造の夜』への参戦の裏側」と題したトークを行っている。なお、同社の『魔改造の夜』への取り組みは特設サイトでも公開されている。企業ブースでありながら企業色は最小限で、あくまで作ることを楽しむ人たちの場として立っていたのが好ましかった。


社内のものづくりサークル「モノトコ」の紹介パネル


島津製作所のブースに展示されていた水平オーニソプター「あめやどり」

株式会社ワコール(D-8)が展示していた「Melooop(メループ)」は、同社が独自に開発した、立体状の不織布を製造する新技術だ。ロボットアームに持たせた3Dプリント製の型に向けて、メルトブロー装置から出てくる繊維を吹き付け、立体を成形する。吹き付ける樹脂の種類、温度、距離、速度、角度といったパラメータを制御することで、でき上がる素材の物性を変えられる。広義のアディティブ・マニュファクチャリング(付加製造)に属する技術だという。


「Melooop」のブラカップと、卵パック形のポーチ、牛乳パック形のバッグ

ステージプログラムに登壇した同社の川村雅樹さんによれば、もともとは女性用ブラジャーのカップを製造するために開発された技術だ。立体的な不織布はこれまでになく、柔軟性が高い一方で強度があり型崩れしにくい。成形時に出る端材も製造工程に戻せるため、リサイクル率は100パーセント近いそうだ。実際にこの技術で作られたカップは、製品のブラジャーにも採用されている。


ステージで「Melooop」について講演するワコールの川村さん

この立体不織布の可能性は、下着にとどまらない。ブースには、パリコレにも参加するファッションブランド「doublet」とコラボレーションして制作した、卵パックや牛乳パックを模したファッションアイテムも並んでいた。川村さんは、産業向けの資材など、さらに幅広い分野への応用を模索していると話していた。京都工芸繊維大学のKYOTO Design Labとは非平面の3Dプリンティングに関する共同研究も行っているとのことで、老舗インナーメーカーの「研究所」としての一面がのぞいていた。

続けていく文化として

S-phereの「ヤングメイカー賞」受賞は、この日の京都を象徴する出来事だった。学校のメイカースペースで芽生えた興味、卒業後も作り続けるために集ったサークル、素材やメカニズムを問い直す研究室、そして技術を社会へ開こうとする企業──成熟の段階はさまざまでも、そのどれもが「若い作り手が育つ場」であることでは共通している。


「ヤングメーカー賞」のリボンとアイリスハンドを手にするS-phereのメンバー

学校・サークル・研究室という“場”のなかで、ものづくりが一過性のイベントではなく、日常の文化として、人々の日々の営みとして根づく。当初、メイカームーブメントにおいて語られていたことの一端が、ここで見ることができた。Kyoto Micro Maker Faire 2026が見せてくれたのは、完成された作品のカタログではなく、作ることが続いていく日常の姿だった。学生・生徒だけを対象にしたメイカーフェアは今回が初めての試みだが、ここで出会った作り手たちが次にどこへ向かうのか。続きを、また別の会場で見られることを期待したい。