Electronics

2013.11.29

対談:カール・バス × 久保田晃弘 「3Dものづくりの未来」(1)

Text by tamura

Maker Faire Tokyo 2013に合わせて、Autodesk米国本社の社⻑兼 CEOカール・バス(Carl Bass)氏が来日した。3Dソフトウェア大手のAutodesk社は近年、個人向けにオープンなソフトウェアや無料サービスを打ち出すなど、Makerに向けて積極戦略をとっている。社長兼CEOであるカール・バス氏と、多摩美術大学教授の久保田晃弘氏に、3Dものづくりの現在、近い将来、来るべき未来について、語りあっていただいた。全3回の記事として掲載する。(第2回は12/2、第3回は12/3の予定)

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(左)多摩美術大学教授の久保田晃弘氏/(右)米 Autodesk 社の社⻑兼 CEO カール・バス氏

久保田 Maker Faire Tokyo 2013にご来場いただいたこと、日本のMakerのひとりとしてとてもうれしく思っています。まずはご覧になっていかがだったか、率直な感想をお聞かせください。

バス 私自身、とても楽しみました。東京のMaker Faireは、サンフランシスコのMaker Faireと同じような雰囲気だな、と思いました。似ているのですが、日本独特の味わいがあるのが面白かったですね。どことなく、日本の工芸の伝統を引き継いでいる感じがしたんです。例えば、紙を使った作品の出展が多いですよね。また、小さな人形や動物のぬいぐるみ。日本独特の繊細さや可愛らしさがある、と思いましたよ。

久保田 なるほど。個人的に興味をそそられた展示はありましたか。

バス フライングマシン(羽ばたき飛行機:超小型飛行体研究所/羽ばたき飛行機製作工房)です。私は、ああいうものが好きです。そうそう、小型のCNCフライス盤(S.ラボ有限会社)の展示もありましたね。あれも印象に残りました。

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(上)早速記録されていたMaker Faire Tokyo 2013の様子。3Dフォトブースのなかにカール・バス氏の姿が見える。(下)MFT2013会場で飛行していた“フライングマシン”

久保田 2日目には、バスさんのプレゼンテーションもありました。最初に、グラスファイバー製の小ヨットや石材で作ったベンチなど、自分自身がMakerとして作ったいろいろなものを紹介していましたね。かなり本格的で、びっくりしました(笑)。バスさんはエンジニアリングだけでなくて、建築やデザインの経験もあるようだと、お見受けしましたけれど。

バス もともと私は、大学での学位は数学で取得しました。そのあと、彫刻を勉強しているんですよ。当時は作品をたくさん作りました。コンピュータ、ソフトウェアの仕事を始めたのはその後なんです。そこから私の中でコンピュータとものづくりが組み合わさっていった、ということになります。

久保田 曲面でデザインされた椅子がありましたね。あれなどは、何か数学的な曲面を使ったりしているのかな。

バス CADは使っていますが、数学は使っていません。そうですか、あれを見ると数式を使っているように見えるのか(笑)。最近私が作るのはベンチ、椅子、テーブルや花瓶なのですけれど、ほとんどCADを使って作っています。

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カール・バス氏が製作した椅子など(写真提供:オートデスク株式会社)

「123D」の無償提供はチャレンジでもある

久保田 個人的な趣味のところでも製品を活用しているのですね。ところで最近、Autodesk社は、Makerにとって重要なソフトウェアやサービスを次々と発表しています。特にクラウドやウェブベースで3Dモデリングができる「123D」シリーズは、日本のMakerの間でもかなり話題になっています。こういうソフトをフリーで配ることによって、ムーブメントが加速しています。当然ながら、「こうなるだろう」というビジョンがあっての展開だろうと考えているのですが。

バス うちの製品を誉めていただけるのはうれしい(笑)。われわれが第一に考えて実行しようとしているのは、「次世代のためのツールを提供すること」です。それは、個人のMakerが対象でも、エンジニアや建築家といったプロフェッショナルが対象でも、同じ。教育分野を対象にした事業も行っていますが、そこでもその姿勢です。そして製品化されたツールについては、「みなさんにまずは使ってもらいたい」と動いています。以前ならばものづくりは、このようなツールがなくても可能だったんですね。現在ものづくりは、プロ、アマチュアを問わず、デジタルデザイン/デジタルクリーションのツールを使わないとできないことが多くなってきています。

久保田 まさにその通りですね。私は美術大学でプログラミングや電子工作を教えていて、デザインやクリエーションにおけるデジタル技術の活用にトライしているのですけれども、そこは強く実感しています。

バス 個人へのフリー提供は「123D」だけでなく、プロ向けCAD製品の「Fusion 360」シリーズでも行っています(プロには有償提供)。いまや個人のMaker向けにフリーで提供することは必然でもあるのですが、これはわれわれとしてもパイオニア的なチャレンジだと考えています。

これまではプロのために最適で最良のツールを有償で提供するのが、われわれの使命でした。しかしそれは、仕事以外で使いたいという個人にとって、最良の方法ではなかったわけです。個人が仕事以外で使うなら、それほど機能的に優れていないツールか、海賊版を使うしかなかった。ものづくりの環境が変化しているにもかかわらず個人がそんな状況下で不便を感じているのであれば、門戸を開き、最適な最良のツールを提供していこう、とわれわれは考えたわけです。もしもいま、世界のどこかで当社の環境対応ものづくりを支援するプログラム(クリーンテックプログラム)に参加したい方々がいるのなら、われわれは無償で提供します、うまく成功したらそこでわれわれのユーザーになっていただきたい、そういうかたちで結構です、というわけです。

久保田 「Fusion 360」は、私もよく使っています。「Autodesk Inventor」(製造業向け3D CADソフトウェア)で作ったものをiPadで見ることができるので、とても助かっています。

CADとCGの融合は急進する

久保田 ユーザーのひとりとして伺いたいことがあります。Autodesk社の製品ラインナップには、3D CGのソフトウェア、例えば「3ds Max」があり、その一方で多くの3D CADのソフトウェアがあります。CADとCGという、違う発想で作られ別個に発達してきた異分野のソフトが、3Dプリンターの時代となって“融合”しつつある状況が生まれています。この融合は、Autodeskにとっても、ビジュアルを作ることとものを作ることの融合という面でも、かなり重要です。ここはどう考えていますか。

バス CADとCG、かつてはこのふたつの世界に大きなギャップがありました。最近はだんだんとマージしてきています。機械のメカデザインとインダストリアルデザイン産業用のデザインが融合したり、機械的な形態と有機的な形態の融合が進んでいたりもしています。ビジュアライゼーションの統合は、どんどん進んでいますし、実際にわれわれも、今後数か月にわたってこの件についての様々な発表をしていくことになるでしょう。

例えば、フォトリアリスティックレンダリング。これは近々、「Fusion 360」の中でストーリーテリングができるようになります。以前はデスクトップで行っていた作業がクラウドになり、あるいはデスクトップとクラウドのハイブリッドでの作業になるとか、そういう動きもあります。デザインの美とエンジニアリングの機能性、この両世界が融合しなくてはならないという課題も、依然としてあります。各方面での融合は、今後ますます進展していくでしょう。

そうそう、「Fusion 360」の最近のリリースをぜひご覧ください。3D CGの「3ds MAX」や「Maya」で作ったポリゴンモデルを使え、「123D Catch」やレーザー3Dスキャナーを使ってポイントクラウド(点群データファイル)を取り込むことができるようになっています。CGの既存のデータをメッシュデータやポイントクラウドで取り込んで、それをまたCADでデザインしていく、そんなデザインのやりとりもできるようになっています。

久保田 ええ。実際のところいままでも、CADのデータは、中間ファイルデータのSTEPとかIGESからCGのデータにするなら比較的容易でしたがその逆、CGからCADにするのが難しかった。最近は、CGからCADへの変換の重要性、必要性が高まってもいます。それが可能になって、さらにその先に進みつつあることを、うれしく思っています。

注目したい「123D Circuits」

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「123D Circuits」

久保田 先日のバスさんのプレゼンテーションでは、「123D Circuits」も紹介されました。あれは面白いですね。電子回路の基板を設計して、画面上でシミュレーションまでできてしまう。もちろんこの設計データから、実際の基板も作れます。基板設計などのエレクトロニクス系とこうしたエンジニアリング系が、こんなかたちで融合していくことも、非常に重要だと私は思っています。

バス 「123D Circuits」、かなりエキサイティングでしょう?(笑) 私自身も使って楽しんでますし、今後を楽しみにしているサービスなんですよ。これを見てください。

久保田 あ、それはプレゼンテーションでも見せてもらった、デジタル表示のダイス(振ると数字の目が表示されるサイコロ)ですね。

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(上)カール・バス氏が作ったデジタル表示のダイス

バス そう。これ、基板は「123D Circuits」で作っています。実際にボードを作る前に、設計をしてシミュレーションして、そしてコードがちゃんと動くことも確認して、組み立てています。ケースは「123D Design」で作って、3Dプリンタで出力しました。

久保田 Arduinoのようなオープンソースハードウェアをいろんなかたちにデザインできたら、ものすごく面白いですね。丸いArduinoや細長いArduino……そんなのが手軽に作れたらすごくいいなぁ。

バス そうなんですよ! いま、電子回路は、そのものを3Dプリンタで印刷してしまおうという動きもありますし、エレクトロニクスとエンジニアリングの融合は、われわれメーカーにとっても重要なことです。その融合の実現の中で特に大事なのは、シミュレーションのステップだとも考えています。

久保田 データのフォーマットなどは、具体的にはどうなっていくのでしょう。先ほどの3D CADと3D CG、それとエレクトロニクス系が融合するとき、データファイルのフォーマット変換が現場ではすごく大事になってくるでしょう。そこであるべき姿はどんなかたちでしょうか。

バス 基本的な考え方として、データのフォーマットが障害になるべきではないと思います。われわれは、ファイルフォーマットはオープンにして、誰でも使えるようにしていく方針です。具体的にはふたつの取り組みをしていて、ひとつは、他社とお互いのライブラリを読み書きできるようにすること。そのような動きには、当社は積極的に参画するようにしています。もうひとつは、オープンポリシー。例えば「Fusion 360」では、25のフォーマットを読んで変換できるようにしています。

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(対談収録:2013年11月7日 東京・晴海のオートデスク株式会社本社にて/文:窪木淳子)