Crafts

2015.12.17

Maker Faire Rome 2015 — パスタの国から食と音楽の革命家Don Pastaが現れた

Text by Toshinao Ruike

パスタの国イタリア。昨年のMaker Faire Romeで3Dパスタプリンターが展示されていたように、イタリアで食の話題は尽きることがない。彼らと食について語り始めたら、いくらでも時間を潰すことができる。今日はMaker Faire Rome 2015に現れた食と音楽の革命家Don Pastaについて書こう。今年のMaker Faire Romeで衝撃的だったのは新製品Genuino101のリリースだけではなかった。

今年のMaker Faire Romeでは音楽系のMakerのためのスペースが大きく割かれていた。サーキット・ベンディングなどのワークショップが開催されているスペースの横に特設ステージ、Maker Musicが設けられ、ヨーロッパ各地から訪れた音楽系Makerたちが自らが作った楽器を披露していた。

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1日目の夕方、ステージの前を通りかかると、なんということだ、DJが野菜を切っていた。背後にはイタリア語で「法律だが、法律を作った人はどれだけ不適切な法律があるかを知っているのか?」というメッセージが映写されている。なぜこんなアクトがMaker Faireに出演しているのか、思わず目を見張った。

「脂肪だって、ちゃんとしたやり方で調理したら、いい栄養になるんだよ!」とかく健康やダイエットについて考える際には敵視されてしまう脂肪分について、人生の先達による含蓄のあるメッセージが音楽や映像と共に繰り返される。

これはガチだ!ピットで膝から崩れ落ちそうになりながら、そう直感した。

イタリアのDon Pastaは野菜を切って炒めたり、パスタを作ったり演奏中にステージ上で調理を行うパフォーマンスで現在人気上昇中のDJとVJのユニットだ。南イタリアに在住し、地方で昔ながらの農業を続ける零細農家の現場を訪れて生産者へのインタビューを丹念に行い、今日の食文化に警鐘を鳴らすドキュメンタリー映像を2年かけて自ら制作。ユーモアのある料理ショーの要素とドキュメンタリーの印象的なダイアログをカットアップしたドラマチックな展開のサウンド、そして効果的なヴィジュアルによるメッセージ性の高いパフォーマンスで瞬く間に人気を博した。国際的に知名度は高まり、イタリアはもちろんフランスなど食に敏感な国でパフォーマンスが行われている。先日は英国の音楽ユニット、Massive Attackのパーティにも前座として出演していた。

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パスタ生地を打つ際の音をサンプリングして、そのリズムに乗りながらパスタマシーンでパスタ生地を伸ばす。まるでパスタと一体化するかのように、デュラムセモリナ粉を頭からかぶりながら。


「今日家でも学校でも子どもに食べさせている食べ物はプラスチックだ。味も香りもまるでプラスチックを食べているようなものだ」

地方の生産者は質が高い食品を作り続けているが、生活は厳しく、その担い手も高齢化している。背景には、栄養や健康よりも見た目を重視する安直なダイエット志向や安価な大量生産品など、生産する側と消費する側の双方にネガティブな要素があり、彼らのパフォーマンスはそういった矛盾を指摘するものだ。

なぜ彼らがMaker Faire Romeに必要だったのか? 食を重視するイタリアですら、供給する側と消費する側の関係がいびつになり、食の安全や長い歴史の中で育み受け継いできた伝統的な食文化が失われつつあるという危機感があるからだ。食の話に留まらず、Makerシーンに携わる我々も、何かを作ってそれをどのようにユーザーに提供していくのかということは、よく考えなければいけない問題だ。

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「今日の食の何がうまくいっていないのか? 君はそれを知って、それから?」こんなに遊び心があって、なおかつ今日の食生活の問題点を真剣に取り上げようとする姿勢に段々胸が熱くなってしまった。

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パフォーマンス終了後はオーディエンスに料理を分ける。この日のパスタは唐辛子を利かせたかなり辛口のパスタ。

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デュラムセモリナ粉を浴びて真っ白になったDon Pasta。演奏終了後はステージから降りて、リラックスして子供たちと遊んでいた。指の股にパスタ生地をくっつけたまま。

Don Pastaはイタリア大衆の料理に関する書籍「Artusi Remix」も著している(Artusiは19世紀のイタリアの著名な料理研究家)。上の動画は2013年の演説「パルミジャーノと革命」。最後は”時間をだらだらと無駄にするためのレッスン あなた方が最終的には闘争の担い手なのです 何より脂身(strutto)だ Don Pastaに清き一票を”というスローガンでマニフェストを締めくくっている。

汚職など社会問題が大変に多いことでも知られるイタリアだが、人々の食への情熱を糸口に革命家、Don Pastaは政界にまで進出するつもりなのかもしれない。ともかくDon Pastaには期待せずにはいられない。食と音楽は我々の生活を豊かにする可能性を広げてくれる大切な要素だ。

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会場となったローマ・ラ・サピエンツァ大学の各所においしいピザやパスタのスタンドが出ていて、ランチには困らない。Maker Faire Romeを訪れる人は食も楽しみに来場してほしい。