Other

2017.05.09

「工作室を使いたい」から始まった社内メイカーが博物館の展示品を制作するまで — ローランド株式会社「R-MONO Lab」メンバーインタビュー

Text by Yusuke Aoyama

mxm_roland_02

Maker Faire Tokyoには個人からグループ、企業まで、さまざまな出展者が参加している。そうしたなかには、製造業に勤務しながら個人のメイカーとして参加している人も少なくない。モノ作りが好きで、仕事にするだけでなく、個人でもメイカー活動にいそしむ。Maker Faireの出展者からは、そんな横顔がうかがい知れる。また、近年増えてきているのが、企業のなかでメイカー活動に関するサークルといったグループでの参加だ。そうしたグループは、企業としてオフィシャルではないものの、企業名を明らかにしていることが少なくない。また、そうした「部活」に対して、企業が支援しているところもあり、かつての企業とメイカーとの関係が変化して来たようにも思われる。

その背景には、企業活動において、社員のメイカー活動がポジティブな効果をもたらしている、と考える人たちが増えてきているのかもしれない。また、メイカームーブメントのなかからさまざまなオープンイノベーションが生み出されていることも無視できない。こうした背景から製造企業であるメーカーと、ものづくりに取り組む個人のメイカーの新たな関係のあり方として、「部活」や「サークル」が生み出されているのではないか。そんな仮説を元に、本連載では新しい「メーカーとメイカーの関係」に取り組む人々を見ていきたい。

Maker Faire Tokyo 2016のレポートで紹介した、「リコーダーを使ったパイプオルガン」を覚えている方はいるだろうか。出展したのは浜松のものづくり同好会「R-MONO Lab」(アールモノラボ)で、このほかにもRaspberry Piを使ったオリジナルのシンセサイザーや、MIDIで水滴を制御する「水滴ドロップ WATER MIDI」など、技術も完成度も高い展示を行っていた。

実はこのR-MONO Lab、世界的な楽器メーカーであるローランド株式会社の社内サークルだ。メンバーのほとんどが同社の社員からなっており、Maker Faire Tokyoの他にも、Ogaki Mini Maker Faireにも参加したり、ローランド社内で手作り楽器の展示会を開いたりと、活発に活動を行っている。また、そのメンバーには社員だけでなく、同社の三木社長も参加し、実際にメンバーと共に手を動かしものづくりを行っているのだという。

インタビューしたローランド社員の皆さん。左から渡邊正和さん、山本敬之さん、渡瀬孝雄さん、菅野修司さん
インタビューしたローランド社員の皆さん。左から渡邊正和さん、山本敬之さん、渡瀬孝雄さん、菅野修司さん

ローランドといえば、先日惜しくも亡くなられた梯郁太郎氏が創業し、電子楽器の世界において大きな功績を残してきた世界的なものづくり企業のひとつ。そうした企業において、社内のメイカーたちが集まって「部活動」を行い、またMaker Faire Tokyoを初めとした外部のイベントへ積極的に参加しているのはどうしてなのか。

「R-MONO Lab」のメンバーである山本敬之さん(グローバル・ブランディング室 課長代理)、渡瀬孝雄さん(第4開発部 課長代理)、渡邊正和さん(第4開発部 課長補佐)にお話をうかがった。また、ローランドの人事部門としてR-MONO Labを支援する立場である菅野修司さん(総務・人事部 給与・福利厚生グループ リーダー)と樋口謙三さん(総務・人事 戦略アドバイザー)にも、ローランドが社内のメイカーたちをどのように見ているのかをうかがった。

「工作室を使いたい」から始まり「博物館に展示品を収める」まで

R-MONO Labは、ローランドの社員によって2014年に設立されたサークルだ。現在のメンバーは20名ほどで、同社の福利厚生の一環として設けられたサークル制度を利用しており、社員なら誰でも参加できる。活動に必要な費用は会社の福利厚生費からの補助のほか、メンバーが支払う会費によって賄われている。つまり、メイカーという活動内容こそ目新しいが、その仕組み自体は多くの企業で見られるサークルという位置付け。その活動もあくまでも「個人の趣味」の範疇となる。

もちろん会社が公認するサークルであるメリットはある。会社からの金銭的な支援のほかに、社内の工作室を利用できることだ。「工作室を公式で使えるようになるというのが目玉だった。それまでは非公式に、残業時間とかにちょっと使わせてもらうみたいなことはあったし、私も過去にはちょっとやっていたことがあったんですけど(笑)」(山本さん)

必要な場合は、毎週水曜日の活動日の終業後に集まり、そこで自由に作業を行うことができる。ただし、テニスやサイクリングなどのスポーツ系のサークルとはことなり、日々の活動はどちらかというと個人ごとに行う場合が多い。そのため活動日も決めてはいるものの、実際には集まらないことも多いという。その理由をメンバーの渡瀬さんは「みんな造りたいものが違う」からだと説明する。「プラモデルを作ってもいいし、木工細工でもいいし、手芸でもいいし、なんでもいい。(サークルを作った時に)自分が造りたいものをまずつくりましょう。その上で必要なツールとかノウハウを皆で共有できればいいんじゃないのっていう、わりとゆるいコンセプトで始めた。なので、集まってやるという形にはあまりならない」(渡邊さん)

だが、せっかくサークルが出来たのに、バラバラに活動するだけというのではもったいない。「それだと少し寂しいので、皆でMaker Faire Tokyoに出そうっていう話しになった」のだと渡瀬さんは続ける。しかし、申し込んだ時点で具体的な展示品のアイデアはなかった。「たまたま申し込んだMaker Faire Tokyoにうっかり受かっちゃいまして(笑)。実は(出展が決まってから)何を作るか集まってブレストして考えた。(中略)どうせならちゃんとみんなで作ろうよと言うことで、リコーダーパイプオルガンを作ることになりました」(山本さん)

それがリコーダーとソレノイドを使った空気弁をArduinoで制御する、リコーダーパイプオルガンの「RP-103」だ。「直前まで音が鳴らなくて。空気室がちゃんと密閉していないと漏れちゃってダメなんですよ。それなのに(Maker Faire Tokyoの)直前になってパッキンがないので、じゃあアマゾンプライムで買って、翌朝につけてみたら、やっと鳴った。本業でもなかなかそこまで情熱的にやらない(笑)」(山本さん)

mxm_roland_03
リコーダーパイプオルガン「RP-103」(左)、「RP-09」(右)とR-MONO Lab代表の山本さん

そんな初めてのMaker Faire Tokyo出展のドタバタした舞台裏を、山本さんは「学園祭をやっている」みたいな楽しさだと表現する。こうしたエピソードや楽しさは、他のMaker Faire出展者からも聞くことがあり、それもメイカーやイベントの醍醐味のひとつなのは間違いない。ちなみにこのRP-103の木製筐体の制作者は三木社長なのだとか。

こうしてMaker Faire Tokyoがきっかけとなって皆で協力して制作したリコーダーパイプオルガンは、さらにR-MONO Labの活動が外部へと広がるきっかけとなった。「たまたまこれを見かけた人から声を掛けていただいた縁で、プロの方とライブイベントに出たり、CDを作ったり。ちょうど浜松市が主催した『浜松楽器メイカーズフェスティバル』が2015年末にあって、ヤマハさんや河合楽器さん、ローランドをはじめとする浜松の楽器メーカーが出展するイベントに出展しました」(渡瀬さん)

「Maker Faire Tokyo 2015に出展したときに、タカハ機工さんからソレノイドコンテストにお誘いいただいた。ソレノイド使っているなら是非やってくださいと」(渡瀬さん)

そうした反響のなかでも大きかったのが、浜松市楽器博物館からのリコーダーパイプオルガンの製作依頼だ。同館の館長が、浜松楽器メイカーズフェスティバルでRP-103の展示を見たのがきっかけとなった。「浜松で展示をしたときに、楽器博物館の館長さんから、1台欲しいってお声がけいただいた」(渡瀬さん)

そのとき制作したのが、小型化し鍵盤がついたブラッシュアップモデルの「RP-09」だ。「パイプオルガンの説明に使いたいと言うことだった。ワゴンに載せて、持っていって、パイプオルガンとまったく同じ仕組みなので説明に使える。館長をお話をしたときに、リコーダーが光ったらいいなとかいう話しになったので、透明なリコーダーにしてLEDで光らせた」(山本さん)

この依頼を受けた時の心境を渡瀬さんは次のように語ってくれた。「うれしかったですね。自分たちがつくったものが博物館にはいるというのは、非常に光栄なことなので。下手すると何十年も残ったりするかもしれないし。それはいいなと思ったので。ふたつ返事でやりますって(笑)」(渡瀬さん)

「週末に家で皆集まって、筐体を組み立てたり、磨いたり。作っているうちに『こういうものを欲しがる人、他にもいるかな』と考え、どうやったら量産できるかなという野心がでてきた(笑)。キットみたいな形にするのはそんなに難しくはないので」(渡瀬さん)

工作室の利用など、どちらかといえば個人のメイカーとしてのメリットを求めて集まってきたR-MONO Labのメンバーだったが、活動していくなかで結果的にローランドという社名の価値を上げることにも繋がっていった。そうした活動時の気持ちを渡瀬さんは「重荷とは感じないけど、ローランドの社員だという心持ちはある」のだという。従来はこうしたグレーゾーンは会社の側から嫌がられることが多かった。しかし、今のローランドではそこが問題にならないのだという。そのあたりの事情をもっと深くうかがった。

ローランドの「ものづくりのDNA」をメイカーが伝える

R-MONO Labは、ローランド社内のメイカーたちが集まって、同社のサークル制度を利用して会社の補助を受けたり、工作室を利用したりと、個人的なメリットを求めて設立された。だが、その設立にあたって、実はメイカー社員だけではなく、経営陣にもある考えがあったという。

R-MONO Labの設立にさかのぼろう。そのきっかけは、大垣市で開催された「Ogaki Mini Maker Faire 2014」だったと、メンバーのひとりである渡邊さんは振り返る「2014年にOgaki Mini Maker Faire 2014に、私個人が初めて参加した。それをメンバーが見に来てくれて、それに触発されて何かやろうという雰囲気が高まっていった」(渡邊さん)

mxm_roland_04
WATER MIDIとR-MONO Labメンバーの渡邊さん。WATER MIDIの詳細はこちら

渡邊さんは、以前から仲の良い同僚4人と「WOSK」というユニットを組み、個人的にメイカー活動やVJ(ビジュアルジョッキー)などの活動に取り組んでいた。その流れでOgaki Mini Maker Faire 2014へも参加した。

大垣でのMini Maker Faireは、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)が中心となって開催されており、2010年の「Make: Ogaki Meeting」の頃からすでに4回を数える実績がある。このOgaki Mini Maker Faireの仕掛け人は、IAMASの小林茂教授であることは弊誌の読者ならご存じの方も多いだろう。小林さんは、Maker Faire Tokyoのセッションや、MakerConなどで頻繁に登壇しており、メイカームーブメントやプロトタイピングの研究者としてよく知られている。

実は小林さんは、元ローランドの社員だ。なかでもR-MONO Labの代表である山本さんは、小林さんが在籍時、業務外でさまざまな活動を一緒にしていたそうだ。「実は小林さんとは、2003年くらいに一緒にロボットを作る『早乙女研究所』という同好会をやっていた。当時、二足歩行ロボットが出始めたころで、新しものだったので。彼が、インフラに成り下がって夢を失ったパーソナルコンピュータでなく、二足歩行ロボットでパーソナルを復権させるんだ! みたいなことを言い出して、私も巻き込まれた(笑)」

mxm_roland_07
山本さん達が制作した早乙女研究所のパンフレット。なかには小林さんによるコラムなどが掲載されていた。

「早乙女研究所は、小林さんが技術顧問で、私がデザイン室長で名刺を作ったりしていたんです。あの時(2003年)は、彼が言っていることが良くわからなかったんです。でも、Ogaki Mini Maker Faire 2014に行って『小林さんが言ってたパーソナルプロトタイピングの世界とはこういうことか!』とわかって、そこでメイカームーブメントを知ってから、そういうのにたずさわるのが楽しいなって」(山本さん)

実は、ローランドとOgaki Mini Maker Faireの間に深い縁があったというわけだ。そして大垣行きから数ヶ月を経て、2014年末にR-MONO Labが設立される運びとなった。だが、その設立にあたっては、Ogaki Mini Maker Faire 2014以外にも、いくつかの伏線があった。そのひとつは、ローランドの代表取締役社長である三木純一氏だ。冒頭で紹介したように三木社長もR-MONO Labのメンバーだが、そうなったのは単に三木社長もひとりのメイカーだからだけではない。ローランドの社内には、製品に限らずさまざまなアイデアを社員が自由に出し合える「アイデア掲示板」がある。山本さんはそのアイデア掲示板の運営委員のひとりで、他の委員と一緒に「掲示板に投稿されたアイデアを形にする仕組み」について検討していたことがあるそうだ。そのことを山本さんが三木社長に相談したところ「モノ作りクラブでやればいいんじゃない」か、という提案を受けたという。

「社長とランチをしているときに『昔から裏研というか机の下というか、そういうのがローランドのDNAだったよな』と話しをされていた。アイデアがあるんだけどなかなか形にならないというけど、そんなの昔は勝手に作っていた。それをクラブでやったらどうかな、という話しになったんです」(山本さん)この「裏研」や「机の下」というのは、かつての日本の製造業において、開発者が通常の業務ではなく自主的に行っていた研究や開発などのこと。当然ながら、業務なのか業務外なのかなどなど曖昧な点が多々あり、現在の企業や労働者を取り巻く環境においては難しくなっており、一般的には認められないものとなってしまっている。

そうした背景もあり、この「掲示板に投稿されたアイデアを具体化するサークル」案は、すぐに潰えてしまった。やはり「今のコンプライアンスでは難しいところがあって、時間外でつくったものをそのまま会社の業務に持っていくというのはまずい」(山本さん)ためだ。しかし、「昔から裏研というか机の下というか、そういうのがローランドのDNAだった」という社長の思いは、決して忘れられたわけではない。「(クラブと業務を結びつけると)成果が求められたりとか、投資対効果を計らなければ経営的にならなかったりとかある。そういうものは忘れて、造りたいものをつくるという、ものづくりの土俵作りでいいじゃないか、というところから(R-MONO Lab)はスタートしている」(山本さん)

なかなか就業時間のなかでは、業務で指示されたこと以外の仕事はしづらい。かといって、業務時間外の活動をそのまま業務に持ち込むことも難しい。また、グーグルの20%ルールのような勤務制度は、今の日本ではまだまだ受け入れられにくい。しかし、サークルならば今の制度のなかで問題なく作ることができる。それによって、今のメイカームーブメントの空気を社内に取り入れ、今の時代にふさわしいメーカーとメイカーの新しい関係を構築していく。

直接、業務に繋がるものではなくても、会社に近いところでメイカーのダイナミズムが生まれれば、それが会社にとっても良い影響を与えるかもしれない。そうした考えや事例は、例えばソニーの「Seed Acceleration Program(SAP)」や「Creative Lounge」にも見ることができる。
【参考】MakerCon 2015レポート「個人のメイカーが活躍し、メーカーという企業にイノベーションをもたらす『グレーゾーン』の大切さ

渡邊さんが仲間と一緒に作ったモジュール型コントローラー。ボリュームやフェーダーのモジュールを自由に組み替えて使うことができる
渡邊さんが仲間と一緒に作ったモジュール型コントローラー。ボリュームやフェーダーのモジュールを自由に組み替えて使うことができる

「モノ作り」と「音楽」というローランドの2つのDNA

「ローランドのDNA」といったときに、「ものづくり」と同じくらい忘れてはならない重要な要素がある。それが「音楽」だ。楽器メーカーであるローランドの社員は、当然ながら「楽器好き」「音楽好き」が多い。そのため昔から定期的に社員によるコンサートが行われてきた。このコンサートは、「秋祭りみたいなもの」(山本さん)と称するだけあって、かなりの規模と参加者。例えば製造業などでかつてはよく行われていた運動会のような位置づけだったという。だから、社員が屋台を出したり、子ども向けの遊具を置いたり、フリーマーケットを開いたりと、より多くの社員とその家族が参加しやすい工夫がなされていた。そうしたコンサートの傍らで、以前から有志による「手作り楽器」の展示も行っていた。R-MONO Lab設立直前の2014年の秋にもコンサートが開かれ、そこで「てづくり楽器展」を併催したところ、予想以上にユニークな作品が集まったという(その時の様子はR-MONO Labのツイッターアカウントにいくつか投稿されている)。

「倉庫の一角を展示ブースにしました。渡邊さんのタップダンスで電子音と映像が生成される装置も出したり、あと自作シンセを出した社員がいたりとか、3Dのプロジェクションマッピングで音と連動するものを出していたりとか、演奏にあわせてボディーが光るギターで演奏しているやつがいたりとか」(山本さん)

この発表会を開いたことによって、社内に「メイカー」が予想以上に多くいたことが、改めて可視化された。これだけメイカーがいて、ものづくりに取り組んでいるなら、サークルを作ればきっと楽しいことになる。そうした期待感もR-MONO Lab設立を後押しした。さらには、社内のメイカーと接することによって、新たなメイカーが生まれることもある。例えば、R-MONO Labメンバーの渡瀬さんもそのひとり。

渡瀬さんは、開発部でソフトウェアエンジニアだったが、管理職になったことで20年以上も自分でコードを書くことがなくなっていた。しかし、メイカー活動をする同僚達に触発されて、Arduinoを購入。C言語でプログラミングをしてみたところ「まだ書ける!」と楽しくなり、いまでは電子回路や筐体の制作などハードウェアの分野にまで手を広げている。「元々ソフトウェアなので仕事だとほとんどハードってやらないんですね。基板設計、回路設計はやっていないですし。これ(R-MONO Lab)を始めてからは、回路設計も自分でやって、今は基板を起こすのをやっている。いま、3枚目を発注しているところ」(渡瀬さん)

周りにメイカーが多いので、わからないことなどはいくらでも聞くことができる。また、インターネットによって、基盤作成サービスから資料までメイカーにとって便利なリソースが入手しやすい。渡瀬さんは環境に恵まれたこともあって、どんどんディープなメイカーへと育っていた。やってみたいことがどんどんと増え、「夢は広がるんですけど、時間もそんなにない」と心底、楽しそうに話す。渡瀬さんに限らず、メイカーから「Maker Faireを見に行って、触発されて始めた」という話しを聞くことは少なくない。ましてや、同じ会社という近い場所で活動しているならば、その影響はかなりのものだろう。そして、ローランドのDNAは、社内のメイカーを通して、着実に広がっている。

mxm_roland_06
メンバーのひとりである「シンセ仙人」さんがつくったラズパイシンセ「S³-6R

企業がイノベーションを生み出すためにメイカーになにができるか

Ogaki Mini Maker Faire 2014、アイデア掲示板の具体化、自主制作楽器エフェクター発表会という要素が揃ったことで、サークルをやろうという機運が高まった。つまり、「ものづくり」と「音楽や楽器が好き」というローランドの2つのDNAが、いまの時代に合った形で発現したのが「R-MONO Lab」だったというわけだ。人事・総務の戦略アドバイザーを務める樋口さんは、この背景にあるものを「(ローランドの)カルチャーでしょうね」と表現する。樋口さんは、ローランドに入社する前は大手電機メーカーなどいくつかの企業を経ている。その経験からローランドには「ものづくりのDNAを持った人が多い」と断言する。さらに樋口さんは次のように続けた。「(三木)社長が、そういうことを自分も若い頃すごくやってきた人。ただ、それなりに歴史のある企業なので、(制度や仕組みなど)急には変えられないし、そうじゃない人もいる。だからバランスが大事でしょうね」(樋口さん)

企業経営にはさまざまな側面があり、メーカーといえど研究開発にだけ注力していればよいわけではない。かといって、それを軽視してはそもそも存在理由を否定してしまうことになる。それゆえのバランスだ。「ただ、今は改革が終わって、ようやく会社が落ち着いたところ。これから、次の成長期に入るタイミング。(中略)今はそのための準備期間と思っている」(樋口さん)

こうした「次のための準備」は、さまざまなレベルで検討されていると総務・人事部の菅野さんも話す。「少し前に人事制度を改定したんですが、その制度設計をしている時に社長の三木が『ローランドらしいインセンティブ制度を考えましょう』ということを言っていたんです」(菅野さん)

その時に出た「ローランドらしいインセンティブ制度」のひとつが「お金じゃなくて、例えば『自分の仕事時間の何パーセントかは、ぜんぜんまったく何にも影響されずに、好きなように開発していい』というのはどうか」(菅野さん)というものだったそうだ。こうした制度としては、グーグルの20%ルールが有名だが、日本企業ではなかなかそこまで踏み込んでいるところは少ない。まだ実現には至っていないものの「ローランドはそういうのが必要な会社」なんだと菅野さんは主張する。その理由は菅野さんが営業部門に所属していた頃の経験にある。

それというのも、新製品発表会などで代理店やディーラーの人々から「ローランドの新製品発表会が一番おもしろい」と、いつも言われていたというのだ。それは、発表会の演出が派手だからというのでは決して無く、新製品が「いつもわくわくする感じがあった」からだそうだ。だからこそ、営業マンとしてそうした製品を扱えることを誇りに思い、総務・人事部門に移ってからは、そうした製品を開発するエンジニア達をサポートしたいという。なぜなら、それこそがローランドがこれからも世界的なブランドであり続けるための「肝だ」と菅野さんは考えているからだ。

現在、日本では多くの企業がイノベーションを求めて試行錯誤している。しかし、革新的な技術や製品が生まれる背景には、それ以上の膨大な数の失敗がある。そして、膨大な失敗をするには、それだけ巨大なエネルギーも必要だ。樋口さんも、過去に関わった大手電機メーカーでの経験を振り返って、革新的な製品開発は「千個やって、3つあたれば成功」というほどシビアなものだという。だが同時に「(革新的な)クリエイティブって、やっぱりこういう枠組みのない所じゃないとできない」とも話す。

もちろん、R-MONO Labにおけるメンバーの活動は、いずれも個人的な趣味としてのもので、業務ではない。しかし、そこでのメイカー活動が周囲に、なんらかの影響を与え、広がって行くことは間違いない。そして、メイカー活動に取り組む社員がひとりでも増えれば、それが企業としてのダイナミズムにも繋がっていくことが期待できる。そこには明確な方法論が見出されているわけではない。しかし、世界中でメイカームーブメントが拡大しているならば、試してみる価値はあるだろう。少なくともR-MONO Labでは、社内に新たなメイカーを生み出しているのだから。