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2017.06.14

Maker Faire Bay Area 2017 #3 闇で蠢くキリン型サウンドシステム

Text by Toshinao Ruike

今回はMaker Faire Bay Area 2017で見かけた音楽系の展示を中心にレポートしよう。

The Electric Giraffe Projectは人が乗って移動できるキリン型DJブースで、サウンドシステムが搭載されている。一見すると、スピーカーを搭載しただけのキリン型の山車のようなものかと思ってしまうのだが、音楽に合わせてPCでキリンの耳の動きまできちんとコントロールできる。

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専用ソフト上では、音楽のミキシングが行えるようになっていたり、キリンの体の各部や照明が専用ソフトで細かく制御できるようになっていた。

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砂漠で開催されるフェスティバル、Burning Manに参加したことが開発のきっかけだったそうだが、きらきら光るキリンに乗って音楽をかけながら移動したいと思い立ち、自前でソフトまで作った制作者の思いはなぜなのか計り知れないものがある。

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Teensyと言えば、負荷の高い処理に向いているArduino互換チップとして知られるが、MonolithはそのTeensyの性能を見せつけるべく作られたシンセサイザー。アクリルの箱が少し不格好な感じがしたが、囲まれた4面のうち3面でコントロールできるようになっていて、それぞれ8ステップシーケンサー、クロマティック・キーボード、タッチパッドなどが備えられている。高度で複雑な機能がついているわけではないが、楽器として遊びやすい基本的な機能に絞られていて、誰とでも気軽に向かい合って合奏ができる。横一列に並んで机の上に置かれたコンパクトな機材を合奏するよりも、逆にこういう大きな箱を囲む方がお互いの様子を見て臨場感を共有しながら合奏できる。親密さやインタラクティブ性という点で優れていて、その点は個人的に発見だった。

通りがかった子どもともセッションしてみた。

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右側面はXY方向を検知する感圧センサーで各種パラメーターをコントロールするタッチパネル。コントロールするパラメーターの種類は3色のボタンで切り替えられる。

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左側面は5本のクロマティック・キーボード。ノブで音高を変えることができる。メイキングの動画、作り方やソースコードなどはページで公開されている

Slaperooは竿の上の金属部分を叩きつけることでベースのスラップ奏法に似た音を簡単に出すことができる楽器。パーカッショニスト/楽器制作者のAndy Graham氏によって開発された。今年1月に開催された楽器展示会NAMMを訪れたStevie Wonderが実際に試奏して(動画)気に入り、彼もSlaperooを所有しているそうだ。

磁気式ピックアップが取り付けられていて、ギターと同じように各種エフェクターと繋げることができる。やはり多少の練習は必要だが、太い帯上の金属部分を押さえて叩くだけなので、弦を押さえて弾く楽器と比較するとそれほど技術は必要としない。弦へのアプローチを考えない分、よりリズムにフォーカスすることができ、その点でAndy氏のパーカッショニストとしての視点が生きている。

この楽器で思い出したのは、昨年のMini Maker Faire Barcelonaのレポートで取り上げた一弦ベースによるデジタルシンセ、Unostringだ(奇しくも前出のTeensyが使われている)。あちらは弦という形は残しているが、1弦だけに弦の数を減らしフレットもつけず、通常のベースよりもシンプルにすることで楽器としての特色を出していた。

会場の特設ステージで様々なパフォーマンスが行われていたが、ステージ前では観客が自らステージの電力を賄うために自転車を漕いで発電していた。「漕いで」とパネルを持った人が時折通り過ぎる。降り注ぐ太陽の下、芝生でリラックスするだけの者もいれば、自転車を漕いでステージを応援する者もいる。

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初日にはベイエリアのMaker Faireの定番らしく、パエリアが関係者に振舞われていた。直径2mほどの巨大なパエリア鍋が10数個。筆者が在住するスペインでも見たことがない量だ。参加者は多く見積もって300人程度。絶対余ると思ったが、案の定最後は余ったパエリアが巨大なフリーザーパックに入れられ配られていた。

さらに一日の終わりには特設ステージの後ろで巨大なテスラコイルでBenny Benassiの「Satisfaction」が演奏されていた。グラマーな女性たちが工事用機材を扱う奇妙なミュージックビデオで2000年代にダンスミュージックの方面で多少話題になった楽曲だ。

ベイエリアの夕暮れを眺めながら、テスラコイルで昔のダンスミュージックを聴き、ケチャップのようなアメリカナイズされた味のパエリアを食べる。何してるんだ自分は、と思わず自分で自分を問うた。

これまで東京、ローマ、バルセロナと世界各地のMaker Faireを見てきたが、今回初めて訪れたベイエリアにはまた独特な雰囲気がある。西海岸の陽気さと言ってよいのかわからないが、あまり技術的に突き詰めるのではなく、とりあえず面白そうだからやってやろうという余裕が感じられる。何のためにやってるんだかわからない珍妙な出展も愛嬌があり、個人的にもMaker Faire含めベイエリアはとても気に入ったので今後も動向を注視したいが、パエリアに関しては、本場スペインで開催されるMaker Faire Barcelonaに期待したいと思う。今月半ばにSonar Music Festivalと共に開催されるMaker Faire Barcelonaのレポートもお楽しみに。