Fabrication

2013.07.16

新産業革命とはなんだ?

Text by kanai

今や、コンピューターと製造技術の合体により引き起こされた革命のとき。これを「新産業革命」と呼ぶ人もいる。今までのところ、その立役者は、RepRapとその無数の派生品に代表される3Dプリンターだ。その分野には大きなエネルギーが渦巻いている。それは素晴らしいことだ。しかし、このムーブメントの周囲を、本当に必要があってやらなければならないことから離脱した、たくさんの誇張やインチキが取り巻いている。

デジタル製造は本物のムーブメントだ

3Dプリントは素晴らしいが、(下でも述べるが)それはソリューションのほんの一部に過ぎない。本当の物は、ひとつのプロセスには収まらないほど大きい。それは、CNC加工から工場の自動化、さらには現在の原始的なサイトの引用を越えるシステム全体の統合に至るまで、製造全般のデジタル化だ。この分野(オートメーション、アブストラクション、規格など)にソフトウェアのアイデアを採り入れることで、より幅広いグループの人々に門戸を開き、世界の問題を解決するためのより多くの可能性を創造できるようになる。

3Dプリントはゲートウェイドラッグだ

3Dプリントが一般に使えるようになったことは、製造業を急速に変革する新しい技術だと称賛されている。たしかにプロトタイピングには大いに役立っているが、多くの工学的理由から、製品の製造には使えないだろうと考えられている。そのわけは後述の「何も民主化されていない」を見てほしい。

3Dプリントは私にとってエキサイティングなものだ。それは大量生産の未来に影響を与えるからではなく(この点は大げさに宣伝されすぎている)、デジタル製造全般へのゲートウェイドラッグだからだ。これから、さらに多くの作業プロセスがデジタル化されていく。それは3Dプリンターと、そのオープンソースの制御ハードウエアとソフトウェアが爆発的に広がるまでは、あまり見られなかったことだ。

分散製造はうまくいかない

近い将来、分散製造は通用しなくなる。環境や価格や時間のためではない。問題は、最低限実行可能なスケールメリット、つまり、効率的な生産ができる最小規模を引き下げてこなかったことだ。効率性は、持続可能性や価格など、あらゆる局面に影響する。詳しくは後述の「何も民主化されていない」を見てほしい。

一方、プロトタイピングの分散化はすでに起きており、未来には欠かせないものとなる。ハッカースペースやTechShopなどを見るだけでも、プロトタイピングが均一化されたことの意味が十分にわかる。それが可能になったのは、もっとも大切な要素が時間だからだ。製品は作り直しの回数が多いほど、よいものができる。それには時間を効率的に使うことが重要となる。ユニットコストを下げることがもっとも重要になる製品製造とはそこが違う。

何も民主化されていない

インクジェットプリンターは印刷を民主化しただろうか? アマゾンは大量にHPのプリンターを使って本を刷っているのだろうか。そんなことはない。本は特別な印刷機で刷られているのだ。そのほかの工業製品もそうだ。

古いことわざを思い出してほしい。「Good, Fast, Cheap – pick two」(良い、早い、安い、は2つしか成り立たない)。これはすべてのエンジニアリングの問題に当てはまる。「良い」と「早い」に力を入れれば「安い」が犠牲になる。つまり民主化はできない((所有できる人が少なくなるからだ)。

Lots of 3D printers, including this Makerbot Replicator 2X
MakerBot Replicator 2x:プロトタイピングにはよいが、製造には向かない?

これには最終的な状態というものもない。特殊化やら何やらで、技術はどんどん進む。特殊化された技術と製造工程は、特殊な技術的問題の解決のために開発される。そのことが、状況を困難にし、他のプロセスを不利な立場におく。つまり、プロトタイプグレードの3Dプリンターは民主化できるが、すると他方では一桁違う価格の巨大で高速なプリンターが作られるようになるのだ。

これは、3Dプリント以外の製造工程も進化を続けることを意味している。今のトレンドは、より高度に特殊化された製造工程だ。今日のデザインは、良くも悪くも、互いに抜きんでようとしている。Appleのクレイジーな製造工程を理想として見るか、あるいは非オートメーション化した手作りの美を求めるかのどちらかだ。どちらも、デザインをよりシンプルにしようとは考えていない。特殊化を目指している。そのため、より多くの工作機械や特殊技術を持つ職人が必要となる。民主化は遠のいていく。

マシンのコストは関係ない

CloudFabでは、なぜMakerBotを使わないのかとよく質問を受ける。高すぎるからだと答えると、みんなはショックを受ける。MakerBotでいちばん金がかかるのは、非常に手間がかかることと、一度にひとつのパーツしか作れない(失敗率も高い)ことだ。業務用のSLS(Selective Laser Sintering、レーザー溶融粉末造形)マシンなら一度に1,000個のパーツが作れるし、セットアップや取り出すのに必要な手間も数分の一で済む。多くのパーツに広がっているからだ。

プロトタイピングでは、誰もが使えるようにするためには、何よりもコストが重要だ。だから、その点においてはMakerBotは完全に筋が通っている。しかし、製造用ツールとなると、その資本コストよりもマシンの費用効果(ユニット/金額)のほうが重要になる。

製造において人件費は高価なものだ。だから中国に工場を移すのだ。この動きに歯止めをかけたければ、システム全体/製造工程の問題、つまりマシンの使い方、人件費の削減、材料のコストなどに注目しなければならない。Shapewaysがマシンを買ったのはそのためだ。それはRepRapではない。製造工程にはまだ改善の余地があるが、新しいマシンの導入しなければならない場合は少ない。

CADが問題なのではない

ハードウェアを作る際に、CADツールの使用にはなんら問題はない。ほんのちょっとその気になれば、The Pirate BayでSolidWorksを使える。このソフトウェアは本当によくできている。オープンソースのCADは状況を大きく変えることはなかった。SolidWorksや同等のCADソフトを超えることはできないが、ないよりはましな程度だ。トレーニングも問題ない。教育用のビデオなどが山ほど揃っている。私は数日間独学で勉強して、すぐにパーツを作れるようになった。そこで確信した。みんなは怠けているだけだと。あるいは、ホビイストたちは、真剣に製品を作っている人たちとは違う市場に落ち込んでしまっているのだ。

ホビイスト向けのツール(123Dなど)は、今はまだ見栄えだけという感じだ。毎日使えるツールというより、Rhinoのスクリプトに近い。TinkerCADの製品は、早く3Dプリントできるモデルを作りたいときなどに便利だが、製品の質を高めようとすれば、昔ながらのちゃんとしたCADパッケージが必要になる。

しかし、CADツールの周囲には問題が山ほど転がっている。コラボレーション、デザインルールのチェック、コスト、シミュレーションなどだ。どれも難しく、開発を遅らせるイライラさせられる問題だ。Upverterなどの企業では、CADツール、シミュレーション、さらに製造までも統合しようとしている。私は、この方向性が最高に面白いと思っている。メカニカルCADはブラウザーで使うには難しいが、デザインから製造までひとつ屋根の下で行う垂直統合企業に同じような未来を私は見ている。

垂直統合が戻ってきた

80年代と90年代、中核のコンピテンシー以外はすべてアウトソーシングせよ、とビジネススクールでは教えていた。ビル管理やコンプライアンスなどの分野ならそれもわかるが、製造をアウトソーシングするのはやっかいだ。たしかに、必ず自社で工場が持てるとは限らないが、そうしないと結果が得られないこともある。その理由のひとつに、組織的な知識を構築するインタラクティブなデザインループがある。これは、ほぼすべてのアウトソーシングされたプロジェクトからは失われてしまった。

今、いちばん面白い企業は、垂直統合されているか、実質的に垂直型であるかのどちらかだ。前者の例として「現代(Hyundai)」がある。この会社は、自社製の自動車に使うための特殊な鉄鋼材を作るための製鋼所を持っている。もちろん、Tesla MotorsもSpaceXも、90パーセント以上の部品を社内で生産している。

AppleがFoxconnにアウトソーシングしていることを、みんなはことさら大事のように言うが、彼らは非常に統合されていて現場と密着している。知識が失われることもなく、Foxconnによってしっかり把握されている。Appleは、製造こそが彼らの未来のデザインの鍵になるということをよく理解している。一方、Foxconnは、Foxconnの知識だけを使うAppleのレベルにサムスンなどが追いつくことは難しいと知っている。これにより、Appleは、自社工場を持たなくても、実質的に垂直統合されているのと同じことになっている。こうすることで、労働者への責任や行政とのやりとりなどを、すべて、Appleよりも地元の事情に詳しいFoxonnに任せることができる。

面白くない3Dプリンターは作るな!

誰かが「新しい」3Dプリンターを作ったと聞くと、決まってRepRapかMakerBotの派生品だ。面白くない。今や私の興味を惹くものは、新しいプロセスか、飛び抜けて素晴らしいインターフェイスか、めちゃくちゃ安い値段ぐらいだ。FormLabsは、この3つを実現している。だから大ヒットしたのだ。何か問題を起こしたければ、みんながすでに作ったものをちょっと改造するのではなく、安いレーザーカッター、CNCフライス盤、ピックアンドプレース・マシンを作ろう。

この記事は、私のウェブサイトに掲載されたものです。

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