2013.12.02
対談:カール・バス × 久保田晃弘 「3Dものづくりの未来」(2)
第1回はこちら。
「Instructables」日本語化の狙い
久保田 現在のようなMakerムーブメントのポイントは、ソフトウェアとハードウェアのクリエイターが融合したことだと、私は考えています。だからこそ、このムーブメントにおいては、コミュニティを形成して、物理的なスペースを運営していくことが欠かせません。僕が関係している(多摩美)ハッカースペースやFabLab(渋谷)なども同様です。
Autodesk社の場合でも最近、Makerがものづくりを共有するサイト「Instructables(インストラクタブルズ)」を傘下におさめて日本語化をしながら、ファブリケーション機器を備えた施設「Autodesk WorkShop」を開いたりしています。これには、私たちにとって相当にインパクトのある発表でした。
バス Autodeskにとって、日本は世界第2位の重要な市場です。「Instructables」を日本語化したのは、ここに潜在的な関心があるし、日本のMakerムーブメントが本物であると判断したからでもあります。日本の場合は、英語のみの表記だと参加者が限られてしまいますよね。「Instructables」は手順などが書かれるので、グーグル翻訳などでは詳細を理解しきれないというのもあって、日本語化することになりました。
久保田 ソフトウェアの会社であるAutodeskが、オンラインやリアルで、コミュニティという“現場”を持つことに対する意義、それはどのあたりに感じているのでしょうか。
バス 私も、このMakerムーブメントにおいてコミュニティは必要不可欠なものだと思っています。すでにいくつか興味深いオンラインコミュニティが存在していますが、そこではコミュニティ同士も参加者同士もお互いに排他的な関係ではないことに注目しています。また、ひとりの参加者が複数のコミュニティにまたがって参加していることにも、注目しています。それで驚くのは、とてもたくさんの人がすごく積極的にコミュニティに貢献しようとしていて、実際にそうしていること! 「Instructables」はもちろん、他のオンラインコミュニティでも、どんどん発表して貢献しようというたくさんの人々の意思を強く感じます。
ツールを活用するセンスが求められている
バス 最近アメリカで興味深いのは、こうしたコミュニティに集うMakerから企業が生まれつつあることです。特にコンシューマー向けのプロダクトが、コミュニティの一部から生まれつつもありますね。日本でも、Makerムーブメントから起業していく動きはありますか。あるいはこういうトレンドからコンシューマー製品が生まれるような可能性はありますか。
久保田 ええ、ありますよ。八木啓太さんのLEDデスクライトや岩佐琢磨さんのUstream配信機器など、Makerとしての個人が会社を作り、その製品がヒットするという事例が、少しずつ生まれてきています。
バス やはり。
久保田 こういう動きを見ていて感じるのは、これからは社会で仕事をしていくうえでのスキルがだいぶ変化しているということです。かつては純粋にスキルを磨くことが重要でした。具体的に言うと、私の教えている美術大学の場合は絵がうまくなる、ものが作れるようになる、そういうことが大事だったわけです。しかし、いまはそれだけではなくて、社会の隠れたニーズを感じたり、社会のリソースを活用するセンスのようなものもすごく重要になってきています。
バス おっしゃる通り、必要なスキルは大きく変化しています。基本的なことができる道具、マシンやソフトウェアは誰もが使えるようになっていますから、みんながある程度はやれてしまうわけです。プロとして生き延びるためには、差別化が必要です。プロとしては、特別なツールが使える、特別なデザインができるというだけではなく、もっと別の何かが必要になってきていると思いますね。
久保田 3Dのことで、もう少しくわしく話しますと、私は学生たちを見ていて、「3Dボトルネック」を感じることが良くあるんですよ。平面でデッサンやドローイングはできても、3Dの世界で自在にものを考えるようになるには、人によってすごくギャップがある。視覚やディスプレイの平面世界と、手や身体の立体世界のギャップは、トレーニングを積まないとなかなか埋まりません。彫刻や建築の学生だけでなく、いろいろな分野の学生が、その平面感覚と立体感覚のギャップを乗り越えられるようにするためのカリキュラムが必要です。
バス 当社の「123D Design」は、そうした用途に適しているかと(笑)。
久保田 タッチパネルを活用した「123D」シリーズのようなものがあると、ボトルネックは太くなるはずです。そこにも期待しています。
バス それから、「Fusion 360」も、デザイナーやアーティストを目指す学生さんにはぜひ使ってもらいたいんです。同様のツールはこれまでにもありましたが、それはアイデアをまとめておいてドキュメント化するというものだったんですね。「Fusion 360」は、アイデアを練りながらデザインしたり、使いながら試していったりできるので、ボトルネックの解消に役立つのではないかと思います。
久保田 そういうツールを活用するセンス、それが求められているのですよね。