2013.12.03
対談:カール・バス × 久保田晃弘 「3Dものづくりの未来」(3)
Autodesk WorkShop(写真提供:オートデスク株式会社)
「Autodesk WorkShop」は新しい学校
久保田 ところで、開設した「Autodesk WorkShop」のことも、もう少しくわしく教えてください。どのような設備なのですか。
バス 敷地は、約2,500平方メートルあります。機材は、CNC、ウォータージェットカッター、レーザーカッター……3Dプリンタは12台ありますよ。ウッドショップ(木工)、メタルショップ(金属加工)も併設しています。
久保田 場所はどこですか。
バス サンフランシスコ市内、ウォータフロントの第9埠頭(Pier9)にあります。
久保田 あぁ、エクスプロラトリウムのあたりですね。具体的にはどんな運用がされているのでしょう。
バス 当社からは「123D」シリーズ、「Instructables」、CAMソフトウェアの担当部署などが入居しています。また、「アーチスト・イン・レジデンス」のプログラムも走り始めています。3か月あるいは6か月の期間で、アーチストが制作活動をしているんです。フェローシップもあって、地元のアートスクールから申し込みしてもらい、受け入れています。企業とのコラボレーションも始めていて、主にリサーチをしています。
久保田 「Autodesk WorkShop」は、新しい学校のような役割をしているんですね。
バス そうです。
久保田 サンフランシスコのあたりではいま、デジタルファブリケーション、CAD/CAMあるいはCG……そういった方面の教育機関ではどこが注目株ですか。
バス ある意味、その方面は「爆発中」です(笑)。多くの大学がデジタルファブリケーションのワークショップを提供しています。FabLabもありますし、TechShopもあります。デジタルファブリケーションを使える環境を多くの大学が整えているので、この分野での教育のあり方は、少し前とはすっかり様変わりしていますね。カリフォルニア大学バークレー校でさえ、つい最近、デジタルファブリケーションの大きなワークショップを開設するために工学部の新棟を建てたところです。中でも優れているのが、サンフランシスコのCCA(California College of the Arts)とボストンのOLINカレッジ 。この東西2校が頭ひとつ抜けています。
プログラミング教育の重要性
久保田 そこで僕が大きな関心を持つのが、デジタルファブリケーションではプログラミングが必須になってくるということです。Arduinoにしても何にしても、ソフトウェアが必要です。そうするとプログラミング教育も必要となります。
バス ええ。プログラミングは必須の基本スキルになってきていると思います。いま世の中にあるデザインや設計を見ていると、そんなに大きなプログラムは書いていないでしょう。しかし、少なくともスクリプトは書いている、プログラミング的な発想で取り組んでいると見て取れることも少なくありません。これからのデザイナーはプログラミングの素養がないといけないでしょうね。そこを考えると、われわれとしては、ツールを簡単に、扱いやすくすることへの責任も感じます。例えば、「Dynamo」はご存じですか? われわれのグラフィック・アルゴリズミック・エディターで、「Grasshopper」のようなツールです。オープンソースで各プラットホームで走り、現実のデザインもバーチャルなデザインも、両方やることができます。
「Dynamo」(図版提供:オートデスク株式会社)
久保田 「Dynamo」、興味をそそられますね。「Grasshopper」は「Rhinoceros」プラグインですが、Dynamoはどういう環境で動くのですか。
バス 今は「Vasari」上でですが、間もなく「Fusion 360」でも走るようになります。オープンソースですので、おそらくユーザー側でいろいろなものの上で走るように作り変えられていくのではないかと思っています。「GitHub」上にあって、誰でもダウンロードできますので、ぜひ使ってみてください。
久保田 使ってみます。個人的には「GitHub」で3DのSTLモデルが扱えるようになったことが、とても面白いと思っています。
バス そうですね。
新世代ツールから誕生する新形態
久保田 ハードウェア面で3Dプリンタが大きな変革をもたらしたように、いまソフトウェアが大きく変わっていると、私は感じています。いろいろな見方があると思いますが、私はものづくりそのものが従来のソフトウェアのような位置づけになってきたと感じているんです。デジタル・ファブリケーション技術とはつまるところ「ものづくりのソフトウェア化」ではないかと……ちょっと抽象的な話なんですけれども。
バス ものづくりが、どんどんコンピュータベースになってきていますからね。製造現場におけるデバイスはみなマイクロプロセッサを使っています。それが3Dプリンタであろうが、ウォータージェットカッターであろうが、レーザーカッターであろうが、マイクロプロセッサを使っていて。もちろんロボットもそうです。
久保田 つまり「メディア全体がソフトウェア化している」んですね。例えばスマートフォンは機能を持った装置、メディアですが、事実上はソフトウェアです。このようにメディアがソフトウェア化することで、多くの人が「ソフトウェアのようにものづくりをしたい」と思っているのではないかという印象です。
バス デジタルの装置や機械があってソフトウェアが進歩したおかげで、非常に複雑な、おそらくこれまでの方法ならば不可能だったかたちのものも作れるようになっていますよね。そうしたツールのおかげで、まったく新しいかたちのもののアイデアも生まれてくる可能性がある。かつ、それを比較的簡単に実現できる、という可能性もあります。
アイデアがそのままかたちになる夢の機械
久保田 そこで伺いたいのは、もっと遠い未来の話です。3Dプリンタやものづくりの動きは、宇宙開発の分野にまで広がっていますよね。例えば、3Dプリンタを宇宙で動かすなど。「Made in Space」のプロジェクトにはAutodesk社も協力していますよね。バイオの分野では、脳をソフトウェアと接続するサイボーグやソフトウェアを体に埋め込むインプラント技術。未来のテクノロジーや新領域での開発について、バスさんのご意見を伺いたいと思います。
(上)「Made in Space」ウェブサイト/(下)ARTSAT2:深宇宙彫刻「DESPATCH」
バス 3Dプリンタで近い将来に必ず起きるのは、高速化であり高解像度化でしょう。造形エリアの巨大化もあります。マテリアルの多様性も近い将来に実現します。その次に来るのは、生物学的プロセスの表現でしょう。器官を作る、DNAを自己組織化する、これはもう技術的に可能になっていますよね。生命体だって設計できる日は、そう遠くない将来に来ると思います。
久保田 僕は今ARTSATプロジェクトのみんなと、芸術専用衛星を打上げて、そのデータを使って作品を制作したり、深宇宙に造形作品を投入しようとしています。バスさんの夢のソフトウェア、夢の「123D」みたいなものはありますか。
バス 夢があるとしたら、アイデアをすぐにものとして実現することでしょう。夢でアイデアが浮かんだら、それが即座にかたちになる。そうしたら最高ですね(笑)。
久保田 ということは、「ブレインマシンインタフェース」?(笑)。どんどんそちらに近づいていききますね。
バス そうそう(笑)。