Crafts

2013.01.26

なぜ、我々はMaker Mediaを分社化したのか — Tim O’Reilly

Text by tamura

今日、O’Reilly MediaはMaker Mediaを分社化することを発表した。このような運びになった背景と、この新しいMaker Mediaにどのような好機があると考えているのかについて、すこし説明したい。[日本語版編集部から:本エントリは、O’Reilly Radarの“Why we spun out Maker Media”の翻訳です。]

愛好家から起業家への橋渡し

次の10年間で興味深い技術は、その多くにソフトウェアだけでなくハードウェアでの革新が含まれているはずだ。熱烈なムーブメントがみなそうであるように、Makerムーブメントも大きな変革の前触れだ。

Dale Doughertyが、2005年にMake Magazineを創刊し、Maker Faireを開始したとき、まず感じたのは、物を作ること、3Dプリントなどの革新的な製造技術、ロボット工学、センサープラットフォーム、さらにクラフトや昔ながらの手作業の技術を採り入れることに対する沸き上がるような興味だった。初期のMakeに掲載されたプロジェクト(カイトフォト、古いビデオデッキを利用したプログラム式ネコ給餌機、周囲の毒物を嗅ぎ分けるように改造したロボット犬など)は、当時はささいなものに思われただろうが、それが将来を予測していた。

2005年、Jeff Han’s のマルチタッチに関する研究は、ニューヨーク大学でのMakerプロジェクトだった。2006年2月、彼がこれをTEDで披露したとき、会場はどよめいた。その1年半後、iPhoneの発売によって、マルチタッチ画面は革新的な消費者製品の基盤となった。

マルチタッチはほんの手始めに過ぎない。スマートフォンはセンサープラットフォームだ。GPS、コンパス、加速度センサー、カメラ、マイクのほかさらにたくさんの特殊なセンサーが、アプリケーションデザインの新しい可能性を生み出す。それは今ようやく、より完全なものになりつつある。Square WalletやUberといった製品は、こうしたプラットフォームがあって初めて可能となった。

しかし問題は、AI技術においてもよく言われてきたことだが、何かが一般消費者向けの世界に足を踏み入れた途端、「Maker的」と見られなくなってしまうという点だ。ナイキがQuantified Self(編注:人間の行動や状態のデータを収集し、分析する)製品販売したり、体重計が体重をツイートしたりといったことは、Makerムーブメントの一部であるとはなかなか見られない。それでも、アプリケーションやビジネスプロセスを進化させたいとき、どれだけセンサーを活用するべきかを考えれば、他の方法では見逃してしまうであろう重要なチャンスに巡り会える。

センサーやArduinoのようなコントローラープラットフォームは、まだMakerの宇宙に属しているように見えるが、スマートフォンのような一般消費者向けのセンサープラットフォームを利用したアプリケーションは、そうは見えない。しかしこれが非常に重要な見極めのポイントであり、未来をより明確に知るための助けとなる。

Makerムーブメントのトレンドラインを理解するには、こう自分に尋ねるといいだろう。「Makerたちは今主流になっているもののうち何で遊んでいるか? 他の種類のデバイスやビジネスプロセスはセンサーを追加することで変革できるか? 起業の好機はどこにあるか?」

これについて考え、周囲を見回せば、Makerムーブメントが「次なる目玉」であることがわかるだろう。

結論として、私たちはMaker Mediaを、この革新の波に乗るための独立した乗り物とすることにした。O’Reilly創設期からの私のパートナーでありMake MagazineとMaker Faireの創始者でもあるDale Doughertyは、この波がやってくることをよく理解し、この7年間、それを大きくしてきた人物だ。今、彼は、その役割をさらに発展させて次なるレベルへと押し上げるためのプラットフォームを手にした。

下の記事は、Makeの起源と、Maker Mediaを今後どうしていきたいかに関するDaleの見解だ。


作ることが普通になる
Dale Doughertyの見解

Timに初めてMake Magazineのアイデアを話したのは、ポートランドのタクシーの中だった。私はOpen Source Conferenceに向かう途中で、そのわずかの時間で「ギーク版マーサ・スチュワート(Martha Stewart for Geeks)」みたいな雑誌を作りたいと彼を口説いた。そこでは、ハッカーが物理世界をハックする方法や、ソフトウェア開発からカスタマイズ、パーソナライズ、物理的環境の構築に至るまでの考え方の活かし方などについて、いい会話ができた。Timが励ましてくれたことが、後にMake Magazineとなるものの最初のステップとなった。数年後にそれが世界的なMakerムーブメントを引き起こそうなど、そのときはまったく考えていなかった。しかし、それは同時に、陰に隠れていた物作りやギークを表舞台に引きずり出した。今や、物を作ることは普通になっている。

当初から、私はMakerたちに魅了されてきた。Makerに会って、彼らの経歴を聞いたり、びっくりするようなプロジェクトを見せてもらうのが楽しみだった。そして私は、Makerたちが、互いに会ってプロジェクトについて話し合い、細かい情報を交換するのを楽しんでいることも知った。そうした情報は私にも教えてくれた。それがMaker Faireを思いつくきっかけとなった。他の人たちも、私と同じようにMakerたちに魅了されるだろうと考えたのだ。Maker Faireはまさに実験的な試みだった。Sherry Huss率いるチームがサンフランシスコ湾岸地区で開かれた最初のMaker Farieをとりまとめた。会場にはエキスポセンターの催し物会場を選んだ。私たちは、Maker Faireを楽しいものにして、家族連れに来てほしかったのだ。私たちは新しいお祭りを創造した。2012年には、世界中で60ものMaker Faireが開かれた。そのほとんどが、町や地域の物作りを支えて推進したいと願う社会的意識の高い個人の主催によるものだった。

Makeはギークなホビイストによって始められたが、今では、楽しくて教育的なことを探している家族にも受け入れられている。他のMakerや人々のための新しい製品やサービスを開発するMakerたちも読んでいる。プロのエンジニアや工業デザイナーも読者に含まれる。Makerたちは、あるときは偶然に、自分たちがやっていることに市場性があることを発見し、起業家になった。彼らは部品やキットを作り、それを私たちがMaker Shedやいろいろな場所で販売する。3DプリンターやCNCといった工作機械やマイクロコントローラーも彼らが作った。Makerは新しい市場のエコシステムを作り出したのだ。

MITのエコノミスト、Michael Schrage(Makeのキット特集号で 「kits as an engine of innovation」(キットは改革のエンジン)という記事を書いている[編注:Make日本語版vol.12に掲載])は、Who Do You Want Your Customers To Become?*(なぜ顧客を変化させるべきなのか)という本を出版した。彼はこの本で、最高の改革は顧客を変化させると書いている。それは顧客に自らの未来の「再考と再定義と再設計」を促すという。Maker Mediaの使命は、より多くの人をMakerにして、広く物作りに参加させ、よりよい未来、家族、コミュニティーを築かせることにある。

私はMaker Mediaとそのチームの可能性に興奮している。Makeの発展を支援しているTim、Laura Baldwin、O’Reillyの同僚たち、そしてO’Reillyコミュニティのみなさんに感謝したい。新しいMakeを作るのが今から楽しみだ。そして、Makeを、Makerを集結させる国際的なブランドに育てていきたい。

* (Schrage, Michael (2012-07-17). Who Do You Want Your Customers to Become? (Kindle Location 57). Perseus Books Group. Kindle Edition.)

— Tim O’Reilly(訳:金井 哲夫)

原文