Fabrication

2024.10.01

軽トラの荷台の工房、独特の美しさがある太ノズル、セラミック3Dプリンター、そして多色造形の日本地図まで、より多彩にディープになった3Dプリンターの世界 ― Maker Faire Tokyo 2024 会場レポート #3

Text by Yusuke Imamura

3Dプリンターはメイカー活動の便利な道具としてすっかり浸透している。そんな中で、3Dプリンターで独特の使い道を追求していた展示を紹介したい。

トラックの荷台に工房を作る


色とりどりのパネルで作られた外壁は3Dプリンター製

Tsukasa-3D(C-02-01)氏は移動する工房を作ることにした。軽トラックの荷台に3Dプリンターで小屋を組み立て、中には3Dプリンターを入れている。外装はすべて3Dプリンターで出力した。1つひとつのパネルは中空で、中に断熱材を入れている。パネルどうしは、これも3Dプリントしたジョイントパーツでつなげられるようにした。ジョイントパーツの規格が決まっていれば、キャンピングカー用の窓を取り付ける際の寸法調整なども楽にできる。


ジョイントパーツの形状は自ら考案した

3Dプリントによる外装にはシートが貼られる予定。3Dプリンター製らしい外装を見られるのは今回のMaker Faire Tokyoだけになるかもしれない。

通常より太いノズルで出力する


太いノズルで出力された造形物には独特の美しさがある

FDM(熱溶解積層)方式の3Dプリンターのノズルは、通常0.4ミリのものが使われる。出力スピードを確保しつつ積層痕が目立ちにくいバランスとされている。

ひとしんし氏が展示する太ノズル3Dプリントの世界(C-01-08)ではそれより倍以上太い、1.2ミリや1.8ミリなどのノズルを使って3Dプリントを行っている。出力に使う3Dプリンターは一般的な市販の機種で、ノズルだけを交換しているという。太いノズルは多くが市販されているが、一部のノズルは旋盤を使って自作もしているそうだ。

太いノズルのメリットの1つは、出力が早く終わること。各層の積層厚は、通常の0.4ミリノズルでは一般に0.2ミリ程度とされる。1.8ミリのノズルならば積層厚を1ミリ近くにできる。1つの層が厚いと積み上げる層の数を減らせるため、出力にかかる時間を大幅に短縮できる。

また目立つ積層痕はむしろ造形のアクセント、デザインの一部として楽しんでいる。「積層痕を無理に消さなくてもいいのではないか」と考えているとのこと。

現在取り組んでいるのは1.5ミリのノズルを使ったメッシュ構造の出力である。3Dプリンターのヘッドは通常、1層出力するごとに積層厚ぶん上昇する。一方ここではヘッドが上下に動きつつ、メッシュの構造を造形していく。1層が波打っているため、高さに対して層の数はきわめて少ない。フィラメントの消費を減らしつつ形状を出力するのに向いていると感じた。


メッシュ構造を出力中の3Dプリンター。吐出されたフィラメントが早く硬化するよう、背後に冷却用のサーキュレーターが置かれていた

陶磁器を3Dプリンターで制作する


粘土で造形するセラミック3Dプリンター

粘土を出力するセラミック3Dプリンターが市販されている。これを使って陶磁器を制作しているのがいとうみずき氏(B-01-07)だ。2ミリのノズルで造形する様子を実演していた。「太ノズル3Dプリントの世界」と同様、積層痕が側面にテクスチャを生み、それがいい味わいになっている。

通常の陶芸では、強度を高めるために外から力を加えて粘土を圧縮していく。これを「締め」という。一方、セラミック3Dプリントでは「締め」ができない。そこで出力された粘土を乾燥中に、いったん水で薄めた粘土(化粧土)に浸す。これによって、スポンジのようにすき間が多い構造が化粧土で埋められて丈夫になり、また焼いた器は水もれしなくなるそうだ。乾燥後に約1,250℃で15時間程度焼成すれば完成する。


つやがあるのは釉薬をかけて焼成したもの。つや消しの器は素焼き

いとう氏は昨年のMaker Faire Tokyo 2023で「Young Maker Challenge 2023」の優秀賞を受賞した。大学を卒業した現在は多治見市にある陶磁器意匠研究所で「修行中」とのことである。

日本列島のパズルを多色造形で出力する


都道府県で区切られた日本列島のパズル。高さ方向を3倍に拡大しており、国土の凹凸を感じやすい

FDM方式の3Dプリンターは単色の出力が主流である。出力に使うフィラメントが単色だからで、多色造形を行うには専用の機構を使い、複数の色のフィラメントを切り替えながら出力するなどの方式がある。つくる~む海老名(H-05-05)には多色造形できる3Dプリンターを用いて作られた、日本列島のパズルが展示されていた。

前回作った単色の日本列島パズルでは、山や湖があることがわかりにくかった。今回は標高100メートルまでを白、それ以上を緑のフィラメントで出力した。おもな湖や盆地も、青や茶色を使って表現している。多色造形したことで説得力が大幅に上がっていることがわかる。

昨今、多色造形できるFDM式3Dプリンターの価格が下がってきている。今後は多色造形された3Dプリント品を見かける機会が増えるかもしれない。